2015-04-03

ピタゴラス、巨大仏、そして諦めるまで――春の18きっぷ旅 加州編(前)

このところの暖かい陽気のおかげで、窓を開け放して仕事しようとする同僚と熾烈な攻防戦を繰り広げられるだけの度胸があればいいのにと思いつつ、マスクをかけて咳込みながら仕事をしている麩之介です。皆さまいかがお過ごしですか。窓閉めていいですかといえる勇気を持ってますか。こいつもはやく臨界突破して花粉症になってしまえばいいのにとか、呪ってませんか。ませんよね。すみません。


某日。朝4時にうっかり目が覚める。真っ暗いなか、カラスが五声続けざまに啼いた。一休禅師ではないので大悟はしない。カラスも間違ってこんな時間に起きちゃったんなら、啼いてないで寝なおせばいいのに。いや、あれは「まだ暗いじゃねえかチキショー!」だったのかも。まあそんなことはどうでもいいやと、寝なおそうと思ったところに、「イイエッ!」「イイエッ!」「イイエッ!」という大声が外から聞こえる。なんだそれは。なにをそんなに躍起になって否定してるのかが気になって完全に目が覚めてしまったけど、よく考えたらアレ、くしゃみだな。(同病)

それから1時間ばかり未練がましく布団のなかに留まっていたけど、諦めて起きてしまうことにして、コーヒーを淹れ、あんパンで手っ取り早く血糖値を上げる。今日は18きっぷで金沢に行くのだ。何年ぶりだろう。金沢21世紀美術館はなかったころのことだし、確実に前世紀のことではあるので、すごくたのしみなんだけど、金沢人と結婚した友人の義実家情報によると、いま観光客がものすごくて、どこにも行けなくて困るわ~、とのこと。まあこの時期は京都にいても同じことだし、行ってきましょう。


6時半にうちを出る。 旅のおともはもちろん(もちろん?)吉田健一『金沢・酒宴』(講談社文芸文庫)。

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)
吉田 健一 四方田 犬彦
4061961055

(金沢旅行のガイドには決してなりませんので、ご注意ください)


7時過ぎ、湖西線近江今津行きの普通電車に乗車。

車中、とくに面白いこともないので、『金沢』に没頭。好きで何度も読んでいる作品だけど、これが何度読んでも面白い。たぶん古くからある町の、居住者でも旅行者でもない人間にしか感じ取れない部分を描くには、この明晰でもあり夢のようでもある文章が必要だったんだろうなと思われる、もう「なんかすごい」としかいいようのない小説。


『金沢』を読んでいたら、「次は~ピタゴラスに~停まります」という車内アナウンスが聞こえたので、本を取り落としそうになる。そんな駅あったっけ? あったっけ、やあるかい、ないわそんな駅、滋賀県やで? いや、滋賀県はほら、ガリバー青少年旅行村とかあるしな、ありえん話やないで。 あー、ガリバー青少年旅行村な、ってそれは地名ちゃうやろ! などと脳内でひとりボケひとりツッコミしているうちに、問題の駅に着いた。「北小松」であった。そうか。「北小松」か。なんだよ、「北小松」かよ。ああ、がっかりだよ、「北小松」には。とか考える前に、「ピタゴラス」に過剰な期待をしてしまう自分のオロカさ加減にがっかりしたほうがいいのではないのか、このバカは、という正論に貸す耳は、当然所持しておりません、このバカは。


近江今津で福井行きに乗り換え、福井で北陸本線金沢行きに乗る。このあたり、けっこう混むのだけど今日は運よく座れた。てことで北陸線では窓外の景色をたのしむ。この辺の民家の屋根瓦にも明るい茶系が多いけど、中国地方とちがって軒並みそれってことはないんだなー、などと考える。


大聖寺駅にて。


芭蕉の句碑。たまたま乗ってた席から見えて、これ、今回はじめて知った。北陸には芭蕉の句碑が多いと聞いていたけど、ホームにこんな風流な一角をしつらえるとは、なかなかやりますな。


さて、風流な大聖寺駅の次、加賀温泉駅周辺には、はじめての金沢行きでこの路線を利用したときに度肝を抜かれた光景が待っているので気が抜けない。カメラを準備して、窓の外を注視する。

見えた! しかし山の向こうに見え隠れするそれはなかなか撮影が難しく、まともに撮れないので、停車してからゆっくり、と思ったら、位置が悪すぎ、柱の陰に。これは発車してからが勝負。

よし!


うっ。



む。木の向こうになんとなくかたちが見えている、アレです。



はい、ようやくまともに撮れました、というのは、すみません、嘘です。よくみたらわかることなので正直に言います。これ、2番目の写真の前に撮りました。それにしても巨大です。とんでもなく金色です。加賀百万石金箔文化、恐るべしです。いや金箔じゃないだろうけど。しかし誰が何のために建立したのでしょうか。俗臭しか(以下自粛)。後日、某呟き処にて、近隣の方から寄せられた情報によると、

① 駅から歩いていくことが可能
② 観音さまが抱いている赤子は奈良の大仏よりでかい
③ 「黄金の三十三間堂」という館がある
④ 営業していなさそうだが、一部ネット情報では「やっている」という説もある

興味が深まるばかりなのであるが、じつは最近 『晴れた日は巨大仏を見に』(宮田珠己 幻冬舎文庫)を読んだら、この巨大仏に一章がさかれていたのだった。

晴れた日は巨大仏を見に (幻冬舎文庫)
宮田 珠己
4344413806

この本が最初に出たのは2004年なので、③に関してはやはり不明のままである。一番知りたい部分が不明なのがスリリング。というわけで、次回の目的地は決まったも同然(行くんかい)。


巨大仏撮影成功で、この旅の写真部門の目的は達成したようなもので(オイ)、金沢駅に着いたわたしはすでに、ちゃんとした写真をとろうという気が失せており、世界でもっとも美しい駅のひとつとして、日本で唯一選ばれた駅舎を撮るのもぞんざいになる。


テキトーに1枚撮ったら、知らないおじさんの記念写真になっていた。


しかしほんとうにすごい人だ。平日なのに。……ってよく考えたら、春休み期間だった。しかたない。


さて、到着したのは昼前。ここで昼飯にしようと、事前に調べておいた回転寿司屋へ。朝のあんパンも消化しつくしたいま、クォリティの高いことで有名な北陸の回転寿司を腹いっぱい食べようではありませんか。と、はやる気持ちを抑えつつ某店へ。駅横のビル内なのですぐ着いた、のだけど……これは……めっっっっ……っっちゃくちゃ並んでます。店を一周する勢いで並んでます。無理です。

……駅周辺でと考えたのがきっといけないのだ。そうだそうだ。ここはチェーン店だし、たしか別店舗が徒歩10分くらいのところにあるはず。そこ行こう、うん。そう決めて歩き出す。


いい天気でよかった。歩いていて気持ちがいい。着物姿の人がちらほら見える。京都には、着物着用で利用すると特典のある施設がけっこうあるのだけど、金沢にもそういうのがあるのだろうか。とか考えながら歩いていたら、その寿司屋が見えてきた。……あー。並んでますね。ものすごく。


昼時だからしかたない。これは3時ごろとかヘンな時間に行くしかないんだろう。そう思ってその店は素通り。以前来たときに入った洋食屋に行ってみるか。


金沢城公園の芝生を歩いてそこに向かう。


広々とした芝生は、踏むとふかふか気持ちいい。 暖かい日で、昼寝している人もいる。のどかだ。公園内には桜が植えてあるけど、どの木もまだ花を咲かせていない。そのせいなのかなんなのかは知らないけど、人の少ない公園を通り抜けて、とある商店街へ。路地を入ったその先に、目指す洋食屋はある。あの角を曲がったところに……む。角にリュックがちらちらと見え隠れしている。てことは。

……並んでいる。ここも並んでいる。たしかに観光ガイドには必ず載っている(と思われる)店だけど、前は人なんて並んでなかったよ。ダメだ、今日はこんな日か。


しかたない。観光を先にして、ヘンな時間に回転寿司だ。そうしよう。


(続く)

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