2019-01-31

日々雑記 2019 Jan. #3

21日(月)




クレソンスープ、トースト。

晩は買ってきたきゅうり巻き(好物)と粕汁の残り。


22日(火)




トースト、コーヒー。




魚肉ソーセージとキャベツの焼きそば。


23日(水)




素うどん。

文博で成瀬己喜男監督『めし』を観る。学生のころに観たはずだが、冒頭、原節子が「外米が少しにおうかしら」と炊いたごはんのにおいを嗅ぐ場面しか覚えていなかった。「川端康成監修」さえ覚えていなかったほどだ。観ているうちに、ああ、ここ覚えがあるな、という場面がいくつか出てきはしたけれども、ほとんど覚えてなかったので実質はじめて観る映画という。しかし職人技の光る凄い映画だった。昔のわたしはなにを見ていたのか。「外米が~」のあと、めしをよそった茶碗の受け渡しひとつで、見事に夫婦の問題を暗示しているではないか。猫の使い方も計算されつくしている。実家に帰った三千代(原節子)のカーディガンが毛玉だらけなのがとてもいい。初之輔(上原謙)の「芳太郎くん(向かいのうちの息子)、就職決まったよ」という、なんてことない台詞が、さりげなくなめらかにハッピーエンディングへの道筋をつけているではないか。憎いほど巧い。杉村春子は問答無用で最高。関係ないが、悪役ではない進藤英太郎をはじめて見た気がする。

帰宅して、晩めし


お揚げと大根の鍋。
七色唐辛子をふって食べる。大根が甘い。


24日(木)




にんにくのスープ。
食べると体の内側からあったかくなってくる。なるほど食べものは燃料なのだなと思う。

今日が期限の回数券で近江八幡へ。ウチを出るのが1分遅れたため地下鉄に乗り遅れ、JRで20分の待ち時間が発生、当然バスにも間に合わずと、雪だるま式に遅れが拡大していくわけだがしかたない。それもあり、雪がちらついていることもありで、長命寺は今回は見送ることにした。八幡堀辺りまでは、駅から徒歩30分。この前素通りした市立資料館(ヴォーリズ建築)を写真におさめたのち、 初雪食堂 で昼食。


テンチュー(天ぷら中華そば)。

このあとは、クラブハリエ日牟禮館のカフェ特別室として利用されているヴォーリズ建築を見に行きがてら、前回見て回った建物をもういちど見たり、気になっていた場所をいくつか回って、駅に戻る。せっかくなので安土まで足を延ばし、旧伊庭家住宅も見てきた。よく歩いた。

紅茶を淹れて、クラブハリエで買ったドーナツを食べ、日付が変わる前にコテンと寝てしまう。


25日(金)




きつねうどん。
たまには甘ぎつねもやるけど、どっちかというとお揚げは甘く煮ないのが好み。焼いて入れたりもするが、お出汁でちょっと炊いただけのが多い。




鍋。

夜、昨日の近江八幡行を上げる。( → 「冬のふらふら旅 2018-19 ― 近江八幡を歩き倒す 4 (ヴォーリズ建築編 2 )」


26日(土)

この冬最大の寒波が来ているらしい。ベランダから見える山が真っ白だ。




チーズトースト、紅茶。




炒飯、インスタントもずくスープ。
冷凍麦飯、たまご、魚肉ソーセージ、にんにく、玉ねぎ、にんじん、ピーマン、煎りごまと、備蓄食材のみを使用。最初に魚肉ソーセージを多めの油で揚げるようにしたら、歯ごたえがよくなってよかった。油はねがすごいけど。

午後、知らず知らずのうちにこたつで寝ていた。昼食を食べたらあったかくなってこたつの電源を切っていたので、寒くて目が覚めたが危うく自室で遭難するところではなかったか。ないか。起きておでんを仕込んだ。

大雪警報が出ている。


夜、近江八幡記事最終回を上げる。( → 「冬のふらふら旅 2018-19 ― 近江八幡を歩き倒す 5 (安土編)」

寝る前に、おでんに大根を入れ忘れたことに気づく。まあ大鍋で数日分あるのだから、明日でいい。


27日(日)

雪が少し積もっているが、晴れている。朝食前に、おでんに入れる大根の下茹でを開始。




黒糖バタートースト、コーヒー。
いつも焦げたのやらなんやらわからない黒糖トーストであるが、今回のはちょっと苦い方に振れている。そう、ありていにいって、少し焦げた。

昼前までに雪は溶けた。煮えた大根を温めたおでん鍋に投入。




おでん定食(大根なし)。
大根はまだ味がしみてないので見送り。やっぱり大根なしではもうひとつぱっとしない。

晩はおでんとビール。大根うまい。

夜、昨年末の旅の記事を上げる。( → 「鯛、庭、そして古書 ― 冬の18きっぷ旅 2018-19 (1)」


28日(月)

おたまをラケットがわりにテニスをする夢を見た。ボールは軟式の。なぜか関係ない人が周りにたくさんいるので、うまくサーブできなくて焦った。




砂糖チーズトースト、コーヒー。
食パンにシュレッドチーズと砂糖を乗せて魚焼きグリルで焼き、裏側は網で焼いた(オーブントースターがあればこんな苦労はしない)。これは甘じょっぱくて美味い。マヨネーズはダメだったけど、たぶんあれは酸味が強すぎたのだな。

晩はおでん。


29日(火)

昨日と同じ夢を見た。おたまでテニス。なんなんだ。




素トースト、紅茶。

晩はラストおでん。

夜、橋本治さんの訃報に接する。小説で好きなのは『つばめの来る日』だったけど、そういえば最初に読んだのは小説ではなく評論だった。『革命的半ズボン主義宣言』だっただろうか。誰かから借りて読んだ。大雑把にいうと「日本人男性はなぜ背広を着るのか」について一冊まるまる費やして語りつつ、理不尽には屈せず、しかし軽やかに対峙しようぜと主張している本(大雑把すぎるか)なのだが、この人は一貫して「自分で考えろ、自力で立て」と言い続けていたのだな。自分で考え、自力で立つことは、なにしろとてもめんどくさいことで、ほとんど誰もやりたがらないから、彼が「こんなふうにやるんだよ」とやってみせて、激励してくれていたのだなと思う。「貧乏は正しい!」シリーズはひとにも薦めた。たくさん読んでいたわけではないけど、この知性が失われてしまったことが残念でならない。ここに挙げた著書がすべて新刊書店では入手できないことも、残念だ。


30日(水)




クロワッサン、コーヒー。
「クロワッサン」という商品名で、だけどいわゆるクロワッサンではなく、ふかふかのロールパン。三日月形なので、クロワッサンでそれはいいのだろうけど、うーん、いいのだろうかと少しだけ思ってしまう。軽くて美味しいパンではある。




焼きそば。
具は魚肉ソーセージ、玉ねぎ、にんにく、にんじん、ピーマン、キャベツ、しいたけ。

晩、板わさでビール飲んでて鼻血出した。粘膜弱ってんな。


31日(木)

朝は黒糖クロワッサンと紅茶。写真はうっかり削除してしまったが、昨日のクロワッサンのシリーズ。焼いてもあまり味わいがかわらないことがわかったので、今朝のは焼かなかった。

午後はやく帰宅、出先で買ってきた焼きそばパンを急いで食べ、あらためて外出。本日期限切れになる映画の招待券があるのだ。

すでに開場していた『ナチス第三の男』に滑り込み。ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』の映画化ということで、ある意味で期待していたんだけど、まああれができないのはわかるので、それはいいとして、普通に映画として見ても、なんかこう、ハイドリッヒにも寄れず、暗殺実行者クビシュとガブチークにも寄りきれず、どっちつかずの薄っぺらい印象。映像は美麗だったけどね。あとこれは日本側の広報がいけないのだと思うのだけど、キャッチコピーがよろしくない。「なぜヒトラーでもヒムラーでもなく、彼だったのか?」ってあんだけデカデカと書いといて、そのなぜかがサッパリわからなかったんですけど。ダメでしょう、これは。ちゃんと映画見てこのコピー書いたんかオマエは、と思ってしまいましたね、ええ、オマエって、誰かしらんけど。

なんかこれで帰るのが腹立たしかったので、同じ館で『未来を乗り換えた男』も観てしまった。これも邦題がちょっとどうかなという感じで、原題の Transit のままのほうがよろしいのでは、と思いつつ観たのだけど、これは佳作だった。1940年代はじめのマルセイユが舞台の物語を、現代に置き換えるのでなく、現代の装置を用いて語ってみせることで、その状況がいかに異常であるかを際立たせているように思われた。感傷的なところが一切ない描写が恐ろしい。そして、まさか最後にあの曲がかかるとは。

そして、間に合いそうだったので文博に移動して、『女が階段を上る時』も観てきてしまった。これは一度観ているが、やっぱり素晴らしかったな。しかしさすがに腹減った。

2019-01-27

鯛、庭、そして古書 ――冬の18きっぷ旅 2018-19 (1)

この冬最大といわれる寒波が襲来した週末、うっかり居眠りして自室で遭難しかかった麩之介です。皆さまいかがお過ごしですか。「寝るなら布団で」、肝に銘じてまいりましょう。


年の瀬も押し詰まってきた某日の朝、前の日に買ったクラブハリエのあんぱんを食べる。消費期限は「当日中」だったが、まあ死にはしないだろう。まだ暗いうちに家を出て、西へ向かう。

海を渡って


うどん県へ。


駅舎がにっこり笑っている。はじめて見たときは「なんだおまえは」と思ったが、もう慣れた。

ちょうどお昼時である。今日はうどん旅ではないけれども、やはりうどんをいただきたく存じ、今まで二度訪ねようとして二度とも、覚えてはいないがなんらかの理由でそこまで行くことさえできなかったお店に向かって歩きはじめる。こんどこそは。

車がないとどうにもならないような地域の、とくに車通りが多い道路が往々にしてそうであるような、歩行者の存在をまったく考えに入れずに設計したんじゃないの、ここ? という所を歩いていて命の危険を感じたため、信号のある場所まで引き返して反対側に渡るなどしながら歩くこと約10分、やっと店までたどりついた本日、ああ、その店は定休日であった。悲願かなわず。ていうか調べとけよという話である。毎度のことだけれども。

うどんは食べたかったが、ともかく腹が減って別のうどん屋へ行こうという気力がなく、来る途中で「あそこもよさそう」と目をつけていた 北浜えびす海鮮食堂 さんへ。思ったより広い店内には、港で働いている感じのお客さんが多い。厨房近くのレジあたりにメニューの看板があるので、そこで注文して、セルフでコップに水を入れて席に着く。


窓の外には漁船が停泊している。ナイス。窓際の席にすればよかったかなーなどと考えていると、来ました


地たこ天ぷら定食 850円也。
大ぶりに切られたぷりぷりのたこの天ぷらは、食べ応えじゅうぶん。さすが漁協経営のお店。アラ汁もうまい。さつまいもとれんこんの後ろにちらりと見えているオレンジ色はにんじんの天ぷら。にんじんを単独で天ぷらにしたものって食べたことがなくて、最初はなんだかわからなかった。

腹を満たし、大満足で、ここからすぐの玉藻公園(高松城址)へ向かう。東門が近かったのだが、よくわかっていなかったのでぐるっとまわって西門から入ってしまった。入るとすぐにですね


鯛にエサをやれるんですよ皆さん。それはやるしかないでしょう(って、もう城とかほとんどどうでもよくなっているわたくし)。


人の気配を察知したか、鯛がしずかに集まってきている。


100円でエサを買い、勇んで階段へ……柵に鍵がかかっている。えー、これ下りられないってこと? ここから投げるしかないん? と思ったが、柵に蓋つきの木の箱が取り付けられているのに気がついた。開けてみる。


これから竹筒を通して餌をやるわけか。


……遠いなあ、鯛まで。間近でエサ食べるの見たかったよ。まあ仕方ない。数粒落としてみる。

にわかに色めき立つ鯛!


駆け寄るハト!


しかし竹筒を通して落とされるエサはすべて海へ!


ちょっと影が鳩サブレーっぽいぞ君ハハハハハ!……えーと。それで。

楽しかった……のか?

考えないほうがいいことは考えるのをやめ、園内散策に気持ちを切り替えよう、と披雲閣庭園へ。

披雲閣は藩主の仕事場兼住居であった建物で、現在建っているのは、維新後老朽化で取り壊されたのを、大正初期に松平頼寿が別邸として再建したものだそうで、国の重要文化財となっている。

のではあるけれども、帰ってから写真を整理してみると、建物の写真も庭の写真もほとんど撮ってないことがわかった。見つかったのは


ど根性松の写真が1枚。いや、散策はとても楽しかったのですよ。建物もよかった。なんで撮ってないんだか自分でもよくわからない。鯛の写真はあんなに撮ったのに。

このあと陳列館の展示を見る。なぜかひこにゃんが展示されていたので吃驚。高松城は彦根城と「姉妹城」なのだそうだ。姉妹城という言葉ははじめて聞いたが、調べたらわりとあった。しかし姉妹でいいのだろうか。「姉妹都市」は米語で "sister cities" というのだけど、これを提唱したのがアイゼンハウアーだという話があって、だとすれば、国や町は英語では女性扱いなので納得できる。しかし "castle" はどうなんだろ。日本語の「城」に近い語感のフランス語の "château" は男性だけどドイツ語の "schloss" は中性だったりするし、さらにいえば同じものを指す名詞の性が言語によって違ったりするのでややこしい。ま、なんでもええか。ちなみに英語で "sister castles" という表現は、わたしは見たことがない。

桜の馬場の水飲みは


なかなかに異なデザイン(市による公園の整備計画を見たら、これ、どうも撤去されそうな気配)。この近くには与謝野晶子の歌が刻まれたモニュメント(ライオンズクラブが寄贈したやつね)があって、中国人観光客の方が熱心に見ておられたのが印象に残っている。日本文学に関心のある方だったのだろうか。

ここから本丸跡は距離的には近いが、橋が一か所にしか架かっていないので、結局来た道を戻ることになる。水門のところを通りかかると、おそらく出張で来たのであろうスーツ姿のサラリーマン二人組が、鯛にエサをやっている。うんうん、やりたいよね。鞘橋を渡って、天守跡の展望デッキより海をのぞむ


工事車両なども見えたりなんかして……しかし、堀の水が海水というのははじめて見た気がする。鯉じゃなくて鯛が泳いでる堀。


高松駅に戻って、今回の旅のメインである次の目的地へ向かおう。徳島方面行の電車(2両編成)に乗り、二駅めで下車、徒歩3分で


あこがれの栗林公園。香川には何度も18きっぷで来ているのだけど、毎度毎度うどん目的なので、公園まで手が回らなかったのだった。見るよー。

芙蓉沼


蓮の枯れた風情もよいものだけど、これは花期は見事だろうな。

屏風松



反対側から見ると、こう


すごいなあ。

見返り獅子


なるほど。

フランス幼児がふたり、転げるように走り回っている。ご両親は芝生に腰を下ろし、楽し気に語らっている。ミシュランガイドを見て来られたのかな。ここ三つ星なんだって。

古理兵衛九重塔


ちょっと調べてみたけど、脇の看板に書かれている「松平初代藩主頼重公の「お庭焼」として正保4(1647)年に京都から招いた紀太理兵衛重利(きたりへいしげとし)が焼いた九重塔である」以外の情報が、ネット上にもほとんどない。

富士山をかたどって築かれた飛来峰より南湖をのぞむ


なんでしょうか、この絶景は。最高でしょうか。

湖の向こうの左奥、紫雲山を背にちらっと見えている建物が掬月亭、あの橋が偃月橋(えんげつきょう)。弓張月が湖面に影を映す姿に似ていることから名づけられたそう。その向こうにある丸っこい島が杜鵑嶼(とけんしょ)。杜鵑はホトトギス、ホトトギスの鳴く頃に咲く花=杜鵑花はサツキ、てことで杜鵑嶼はサツキ島ということですね。当然植えられているのはサツキツツジ。


「恋つつじ」ですってよ。こういうの、いつからあるんだろう、と思って調べてみたところ、無理にこの形にしたのではなく、剪定を繰り返すうちに偶然こうなったとのことで、「客寄せか」とつい舌打ちしてしまったどす黒い心を洗い清めんがため、今後一層、美しいものを積極的に摂取していくことを誓います。

梅林に、1本だけ花をつけている梅の木



あれ、ここ通ったはずなのに、気づかなかったってどういうこと? と思ったら反対側が屏風松で、松スゲースゲーで梅林の方をまったく見ていなかったのだった。たぶんこんな感じで、見ていないところが多々あるのではないだろうか。

しかしいいですよ、ここ。住みたい。住むのは無理だけど、たびたび来たい。近くだったら絶対年間パスポート(一人用 2,570円、三人用 5,140円)買うな。そうそう、後で知ったのだけど、玉藻公園のチケットを見せると入園料が割引になったらしい。これから行かれる方は、ぜひ。


2両の電車に乗って、高松駅へ。このあとはとくにしたいこともないので、街中を歩いてみようと思う。いつだったか、とあるうどん屋さんを目指して歩いてたら「菊池寛通り」という道に出くわしたんで、そっちの方に行ってみるかな、と歩き出して、すぐ。

む。


リバー書房さんという古書店。ここは、間違いない。なぜかはよくわからぬが、わたしの嗅覚が間違いないと告げている。中に入る。奥行きがそうとうあって、かなり広い。床からは本が積みあがっている。棚以外の場所に未整理の本が積まれている店はよくあるが、ここは少し違う。どちらかというと、散乱しているといった方が正しい印象。通路にはなんかの本の帯のきれっぱしみたいなものが落ちていたりして。ただし嫌な感じはなぜかしない(感覚は人それぞれだろうとは思うが)。棚の本はきちんと分類・整理されていて、品ぞろえはかなりよく、とくに文学、美術関係の本に良書が多い。いいですね。好きな本屋だ。

棚をゆっくり見ていると、奥からず……ずず……という音が。うどんだ。おっちゃんがうどんをたぐっているのだ。おお、地元民がうどんを食べている、となぜか盛り上がるわたくし。「それ、どこのおうどんですか」と聞きたい気持ちを辛うじて抑える。うどん県にきてうどんを食べずに帰るというのもまあいいけど、やっぱり食べたいよねえ。どっかで食べて帰ろう。それはさておくとして。

入口近くからだんだん奥に向かって見ていくわけだが、散らかり具合がだんだん酷くなっていく……棚ばかり見ていると確実に本を踏む。なんだろう、仕入れに整理が追いつかないのだろうか。おっちゃんひとりでやっておられるのだろうなあ。おっちゃんが座っている帳場のあたりが混沌の頂点で、どこもかしこも本だらけ。体のバランスを崩しそうになりながら反対側に折り返し、足元に気をつけながら棚を見て、入り口近くに戻る。欲しい本はいくらもあったけど、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ボルヘス・エッセイ集』(木村榮一 訳 平凡社ライブラリー)600円と J.-K. ユイスマンス『彼方』(田辺貞之助 訳 創元推理文庫)500円を買うことにした。おっちゃんは「ありがとう! うん、1,100円か……1,000円にしときましょう」とにっこり。おまけしてもらっちゃった。ありがとう、おっちゃん。また行かしてもらいます。

店を出たら、空には桃色の雲。


さて、うどんだ。前に行ったお店が美味くて安かった(きつねうどん270円)し、駅に近いし、そこで食べて帰るのもいいなと、営業時間を確認しようとしてわかったのだが、そのお店は残念ながら2017年に閉店されていた……残念だが、仕方ない。あれこれ調べるより歩いて見つけた店に入ってみよう、ということで、リバー書房さんからほど近い商店街で目についたさぬき麺業さんに入店、注文後、待っている間に購入した本の写真を撮っていて、隣の席の人に「なにやってるのかしら」という目で見られるなど。


負けない。


天ぷらと温玉のぶっかけうどん(温)。正式名称は忘れた。揚げたての天ぷらがさくさくと美味しかった。


さ、帰ろう。駅に着いたが電車の時間にはまだ間があるので、土産物など見て行こう……なんだお前は。


うどん県観光課係長 うどん健氏。公務員、しかも管理職。白皙の美男子である。袖のフリンジも原材料は小麦粉なのだろうか。ていうか服装かなり自由だな。いい県だ。

健さんのグッズはおいといて、ほかの土産を物色。半生タイプや乾麺と、お土産うどんの種類が豊富なのは理解できるが、うどん煎餅、うどん風味キャラメル、うどん風グミという異色の土産はなんなのだ。ほんまになんでもかんでもうどんやな。どんな味やねん、ってかつお出汁ですね、いうまでもないね。グミは形だけがうどん風で、味はレモンらしく、ちょっと安心した。まあ無難にうどんの揚げ菓子にしておく。塩味のとカレー味の。いや、しかし楽しかったな。うん、次回こそは、まぼろしのうどん店への入店を果たす。待ってろよ、って別にお店に責任があるわけじゃないんだけれども。

2019-01-26

冬のふらふら旅 2018-19 ― 近江八幡を歩き倒す 5 (安土編)

(承前)

調査不足のため、というか、当日やることを現地で決めたので調査もへったくれもないといえばないわけだが、近江八幡を歩き倒す企画第1弾で見逃したヴォーリズ建築を見て回り、安土まで足を延ばしたわたくし、当地の目的地「旧伊庭家住宅」を見て、やることがなくなってしまった。安土まで来たのだから、どうせなら安土城跡とか信長の館とかを見たい。しかしここから信長の館や安土城考古博物館のある文芸の郷までは3㎞、そこから安土城跡登り口まで1.2㎞、安土城跡まで山を上って下りて、登り口から駅までは1.6㎞、歩けない距離ではないが、こういうことは1日コースでやることだ。もう午後3時を回っているし、こういう場所で日が暮れるとせつないことになるのだ(各地で経験済み)。

というわけで、目的地を定めずテキトーに歩いてみることにした。駅まで戻り、さて、どっちに行くかな、と見回してみると、遠くになにやら見慣れた形が見えた。間違いない、あれはヤツだ。現場に急行したわたしが見たものは


彼である。なかなかに荒唐無稽なスタイル。歴史ある町らしくちょんまげに草履だが、その間がTシャツにピチパンという個性あふれるコーディネート。服装はなんとかならなかったのか。

先に面白そうなものも見えなかったので、地図を見た。いくつか湧水のあるあたりにでも行ってみよう。

駅前から東に伸びる商店街に入って進む。観光案内所の角に


たまに見かける立体タイプの味わい深さよ。このタイプは手を上げたり旗を掲げたりとルール順守のものが多く、いきなり飛び出す無法者はいないように思われる。彼もお行儀よく旗を掲げていたはずであるが、旗は散逸してしまっている模様。

そこから少し行くと、本屋さん。店名が「めん嘉」さんなので、食堂か製麺所かと思ってしまった。掲示板にはびっしりとチラシが貼られ、ちょっとしたインフォメーションセンターになっている。そのなかに


そうか、キミの名はとび太くんというのか。ていうかキミ「守ろう交通ルール!」とかいいつつ飛び出しているわけだが、いってることとやってることに矛盾を感じないのか。しかし「レアキャラ! あの戦国武将とび太くんも…?!」が気になる。ぜひ発見したい。

案内板で湧水のある方向を確認して、そちらへ向かう。……うん、いますね。


オリジナル系だ。この通りは彼女がやたらに飛び出してくる。二段タイプもある。


下段は事故物件。

彼は各種案内役も務めているようだ。


さて、北川湧水ですが


水が! めちゃくちゃ! きれい! お地蔵さまの足元から湧き出ている霊水とのことで、「足涌(あしゆ)」に腰をおろして足をひたすことにより一切の邪心を洗い流すことができる云々とある。夏には気持ちよかろうな。

英語のほかはラテン系言語の常浜の看板。


この先に舟入跡があったらしいのだが、わたしはカワセミに気を取られていてちゃんと見ていない。

もう少し行くと、常浜水辺公園。だれもいない。そういえば、ここまで来る間、歩いている人にまったく会わなかった。


水鳥はいっぱいいた。遠いのでほとんど見えないけど。

人のいる方に向かうかな、と北川湧水まで戻り、小学校の横を……おっと、いました。


いうところの「0系」。非常に美しく保たれているが、頭になにかテープ状のものが貼りついているのが謎。

そしてこちら、わたくしの好物である塗りなおし物件。


手塗りの緊張感みなぎるタッチがみずみずしい。まず耳の下側のラインが消え、色彩に個性の主張をはじめた段階だが、これから徐々に原型から遠ざかっていくさまが見込める、期待の逸品である。定期的に観測したい。

下校中の小学生集団とすれ違ったとき、だれかが「稗田礼次郎!」と叫ぶのが聞こえたんだけど、聞き間違い、なのだろうな。それとも安土小で大人気なのだろうか。などと考えつつ歩いていて、ずっと先にもう一体とび太くんの姿を発見。わくわくしながら行ってみたが、最初に見た普及版(?)であった。もうしばらく探してみるかなあ、でも小学校から離れた場所、というか「あの戦国武将」ならば、あんまり観光地から離れた場所に設置する意味もよくわからないよな、ということで、諦めて引き返すことにした。だいたい疲れましたよ、もう。食堂と電車以外、歩きづめだし。

駅に向かって帰る途中に見たナイスな看板。



なかなかいい。たぶん営業していない店だけど。

駅まで戻り、土産物でも見ていこうかな、と観光案内所に目をやったところ……いた。こんなところに。


観光案内所の中ですか。「青い鳥はこんなに近くにいたんだね」って気分だよ。しかも入口のすぐ横なのに、なぜ気づかなかったのだろう。旧伊庭家住宅のパンフしか見ていなかったからだろうな。「写真撮ってもいいですか」と尋ねたら、案内所の方が「どうぞどうぞ。ここのドアを開けておいた方が写りがいいんですよ」と、寒いのにわざわざ自動ドアを開けておいてくださった。「ノブナガくん」はこれ一体だけなのだそうだ。駅前が工事中なので案内所で預かっているけど、工事が終われば外に出るとか。次回は外で会おう。


てーことで、帰ろう帰ろう。今日も歩きに歩いてさすがに疲れた。次回は信長コースか、西国三十三所コースで訪れることになろう。しかし……観音正寺はけっこうな登山ではないか、というか滋賀県の公式観光サイトのモデルコースだと完全に山越えなのだが、ワシ大丈夫なんか。さらなるエクストリーム遠足の予感に慄きを禁じ得ないわたくしであった。