11月某日。本日は東から来る友人Sさんと、そのご友人Kさんのアテンド。お二人が京都国立博物館で開催中の展示を見に来られるというので、お誘いいただいたのだった。それ以外に行きたいところや見たいものがあるか事前に尋ねたところ、
1.タイ・ラオス料理店 キンカーオ で食事したい
2.西洋民芸の店 グランピエ に行きたい
3.京都っぽい紅葉が見たい
の三点のみで、あとはおまかせとのこと。紅葉には早すぎるけれども、まあなんか考えましょう。
まずは新幹線乗り場までお迎えに上る。以前に比べるとかなり人が多くなっている。久しぶりにお会いするSさんは「紺色のニット帽に眼鏡」のいでたちと聞いており、「紺のニット帽に眼鏡、紺のニット帽に眼鏡」ときょろきょろ探しまわった末にわたしが見つけたのは、暑いからとニット帽を脱いでいたSさんであった。久々の再会に感極まったわたしの第一声は「かぶっといてくれよ!」であった。われながら無礼者である。
さて、それじゃ行きましょうか、と歩き出したわれわれ一行。実はここに来る途中、地下街を歩いていて偶然古書市をやっているのを見てしまったわたくし、つい「あ、そうそう、そこの地下で古書市やってましたよ」と口走ってしまった。Sさんは、夏の古本まつりオフ(8月12日の日記参照 → 日々雑記 2022 Aug. #2 )にご一緒するはずだったお方(それで、そのとき行けなかった料理店を指定されたのであった)。そう、本が大好きな方なのであった。ああ、なんということであろう(棒)、それを知りながらわたしはうっかり(うっかり?)口を滑らせてしまったのである。一日はまだ始まったばかりだというのに、ああ(棒)。
さて、それじゃ行きましょうか、と歩き出したわれわれ一行。実はここに来る途中、地下街を歩いていて偶然古書市をやっているのを見てしまったわたくし、つい「あ、そうそう、そこの地下で古書市やってましたよ」と口走ってしまった。Sさんは、夏の古本まつりオフ(8月12日の日記参照 → 日々雑記 2022 Aug. #2 )にご一緒するはずだったお方(それで、そのとき行けなかった料理店を指定されたのであった)。そう、本が大好きな方なのであった。ああ、なんということであろう(棒)、それを知りながらわたしはうっかり(うっかり?)口を滑らせてしまったのである。一日はまだ始まったばかりだというのに、ああ(棒)。
というわけで、まずは地下。
各自勝手に見て回る(通常営業)。Sさんは文庫・新書など3冊を手に、箱入りのゴツい本の前で逡巡しておられた。強い。しかし「帰りにまた寄りましょう。たぶんあれ(ゴツい本)は残ってますよ」と文庫&新書のみお買い上げ。常識人だ。いや、どうだろう?
地上に出て、最初の目的地へ。「歩いて行けないことはないんですが、いちにち長いですし、バスで行きましょう」と説明しつつバス乗り場の方を見ると、ものすごい行列が目に入った。それはわれわれが乗るべきバスを待つ列であった。「歩きましょう」「そうしましょう」
駅から歩くこと約15分、目的地の手前で、いつもの(わたしにとって)喫茶店、 喫茶アマゾン (今年で創業50年!)で休憩。2階窓際のカウンター席に案内される。わたしはコーヒー、ほかの二人はサンドウィッチとコーヒーのセットを注文。
玉子トーストを二切れ分けてもらった。わたしはここではいつも玉子トーストをたのんでしまうので、つい「玉子トーストがおすすめです」なんていってしまった。玉子トーストしか食べたことないのに「おすすめです」もないもんだけど、もう一皿のハムサンドも、そしてもちろんコーヒーもおいしかったと二人とも喜んでくださり、なによりであった。
そして京都国立博物館へ。前期展示開催中の特別展『京(みやこ)に生きる文化 茶の湯』を見に行く。
(ここに画像を入れようとしたら、なんと会場もタテカンも撮ってなかった)(不覚)
龍光院蔵の窯変天目茶碗が見られると思ったら、展示期間が過ぎていた。残念。しかし目玉(?)の大井戸茶碗をはじめ多数の国宝が展示されていて、眼福眼福。逸話だけ知っていて、いつか実物を見たいと思っていた馬蝗絆が見られてうれしかった。これ国宝だと思ってたけど重文だったのだな。まあ国宝だったら、ちょうど開催中の東博の『国宝 東京国立博物館のすべて』に出てますな。絵画も素晴らしかった。とくに水墨画。伝 牧谿 筆「柿図・栗図」にまた会えた。これ大好きなのだ。
そういえば全体的にキャプションが独特で、なかには「ナマズを思わせるぬめりのある肌」(※茶釜の質感の形容)なんて書かれているものもあったりして、「いやナマズの質感知ってる人少なくない?」「ていうか別にナマズでなくてもよくない?」といちいち面白がってしまった。
それにしても、見応えがあった。通常は常設展示場の平成知新館が会場だったため、常設展を見ていないにもかかわらず、見終わるまでに3時間以上かかったほどに……ということは、昼食はここで、とリクエストのあった料理店は……はい、閉まってますね。まあ、どこなと食べるところはありますよと、次の目的地へ向かう前に、昔この近辺に住んでいたわたくしが渾身でおすすめする、 赤尾屋 (創業元禄12年!今年で何年目かはちょっとすぐにはわからない!)と、 井上製パン (今年で創業70年!)で買い物をして、次の目的地を目指し、京阪電車で出町柳へ。
車中で「出町柳駅ということは、出町ふたば は近いのでしょうか」とKさん。水無月を買いたいのだそうだ。季節菓子なので置いてないかもしれないけれども、行ってみることにした。橋を渡りながら、川べりに座る人々を指し「あれが鴨川名物 等間隔カップルです」「このあたりはまだ各カップルの縄張りが広いですが、三条‐四条間は個体数が多いため狭くなります」などと適当にガイド。そして河原町通りへ。「あの人だかりが見えますか? あの行列の先にあるのが 出町ふたば です」「ひぃ……」「今日はまだましですが、ひどいときは烏丸通を挟んで、向かい側にも列ができます」「うわぁ……」
人波の隙間からウィンドウを見る。店先の貼り紙に「栗水無月」というのがあったが、すでに売切れであった。残念。しかし通年あるものなのか、「水無月」なのに。ともかく、すぐそこの商店街にも和菓子屋さんはある、というか、この 出町枡形商店街 も、二人にぜひ楽しんでいただきたかったのだ。
スーパーの店先に
魅惑のハイカロリー枕。
歩きながらふと思い出して
わたし「この商店街には、なかなかいい古書店が2軒あるんですよ」
Sさん「いや、もう古本は」
わたし(ほかにも図録とかグッズいっぱい買ったからね、と頷く)
Sさん[でもちょっと」
わたし「入るんかい」
結局両方の店に入ったわれわれ。そのうちの1軒、ふるほん上海ラヂオ ではかなり時間を使った。
表紙に感想を書く斬新なスタイル
これ売ったんだ。ひょっとしたら親切のつもりなのかもしれないけど、こんなの誰も喜ばないよねえ。
わたしは100円コーナー(掘り出し物多し)の文庫本を1冊買い、Kさんと一緒に店を出て、Sさんの買い物が済むのを待つことにした。
店を出てすぐの足下には
何人かの寄せ描きらしく、それぞれタッチが違う海の仲間たちのイラストタイル……これなんだろう?
……大かむろ? は海の仲間ではないな。あ、突起物が8本あるところをみるとタコかもしれない。子供は律儀にすべての脚を描くものだ。ひょっとしてこういうことなのではないか。
右利きの子が左下からくるんとマルを描き、マルの中に顔を描いて、左端の脚から描きはじめたが、すべての脚があるべき場所にうまく収まらず、上までいっちゃった感じ。タテヨコの関係がこれであっているとして、突起物がすべて下方に向いていること、4本目か5本目からのやっつけ感からいっても、これ正解じゃない? 画面左下のイカにも脚がちゃんと10本ある。
イカのとなりの緑のボルボックス的なものには突起物が8本。これもおそらくタコであろう。むしろ正体が皆目わからんのは、さっきのタコ(と思しきもの)の隣のやつだ。
渦を巻きなにかを生やしている。渦の中心の暗黒はいったいなんなのか。こやつが何者であるのか考えていると、支払いを終えたSさん登場。結局ここでも大量に買い込み、エコバッグのひもがちぎれんばかりであった。
寺町側の出口に近いあたりの豆腐店 いづもや の前で、「ここのお豆腐おいしいんですよ、この辺はいい水が出るとこで、その井戸水でつくってはるんです。わたしこの辺に来るといつもここでなにかしら買って帰るんです、厚揚げとか」なんていうが早いか「すみません、ひろうすください!」と注文するSさん。えっと、まあ夏場ではなし、大丈夫でしょう、うん。ひろうすもおいしいんだよね。大きくて、中にゆり根とぎんなんが入ってて。煮物もよいし、フライパンでじっくりパリッと焼いて、アツアツのところを生姜醤油か、天つゆに大根おろしなんてのも。
寺町通に出て南へ、今出川通りを西へ。向かったのは 京都御苑 である。事前に「京都っぽい」どころか紅葉そのものがまだ始まってないと思うんですが、とお伺いを立てると「いい感じの木々が見られたらいい」ということだったので、それならここでしょう、やはり。今出川御門から入園、いきなり盛り上がる客人たち。ばっしばっし写真を撮りまくっておられる。うむ、お連れしてよかった。ところでわれわれ、まだお昼食べてなかったのですよね。
ベンチに座って、井上製パンで買ったパンを食べる。これが美味しいんですよとオススメしたミルクフランスは大好評であった。わたしがあの辺に住んでいたのは20年以上前で、お店は代替わりしたようなのだけど(接客してくれたのは若い人で、いつも粉だらけの手でお釣りを渡してくれてたおじさんは、奥の窯の前で新聞を読んでおられた)、相変わらずうまかった。
歩いているとこういうものが目に入る。
たまに修学旅行生なんかが警報鳴らしてるんですよーあとなんか放送で注意されてる人もたまにいますねーどっかで見てるんでしょうねー、なんていいつつ歩いていたら、溝をまたいで写真を撮っていた人が警報を鳴らし、挙句に「壁から離れてください」と放送が入った。あまりのタイミングのよさに大笑いするなど。
日が陰り、さすがに冷えてきた。大きな木の梢はまだ日に照らされている。
いい感じに西日を受けたケヤキと、月。
京都御苑を後にして、地下鉄で市役所前駅へ。寺町通りを北上しつつ、「あそこにいい古書店が」「いや、さすがに……」「ですよねー」などといいつつ、最終目的地を目指す途中、常々気になっている店に目が留まる。
取扱い商品のみが表示されている ボタンの店 エクラン の潔いファサードは紹介せざるを得まい。実は「ボタン」という店名だとずっと思っていた。寄っていこうということになって、はじめて店内へ。ひとりではなんとなく入りにくかったので、この機会にじっくり中を見せていただく。すごい。ご主人いわくボタンの在庫は10万個とのこと。冷やかすだけのつもりが、ご主人(めっちゃ話好き)と楽しく会話しているうちに、気づけば友人への土産をまんまと購入していた。こう見えて(見えない)かわいいものが好きだったりするもので、うっかりするとこういうことになる。
さて、そろそろ目的地。そうそう、 西洋民芸の店 グランピエ の店舗は2軒あって、わたしがよく食器などを買っているところと、入ったことがない衣類なんかの店がありますが、というと即座に「両方!」と返ってきた。まあ離れていない、どころか道を挟んで斜向かいという感じなので、まったく問題ない。両方の店でたっぷり時間を使う。ここでちょっといいものを見つけてしまった。素朴なたまご色の陶器のシリーズ。みんなこれを気に入り、3人お揃い、いやSさんはご家族の分も買われたので、4人お揃いで、たっぷり入りそうなカップを買った。
コルドバのオリーブ畑の土で焼いた陶器とのこと。柄はオリーブの葉。歪んでいたり、大きさがまちまちだったり、描かれている葉っぱの枚数が違っていたりと、おおらかでとてもよい。
(※後日の話だけど、わたしは友人2人の分も買ったので、最終的にはわたしの周囲の6人が同じカップを手にすることとなった)
さて夕食どうしますかねー、カレーどうです? ということで、 カマル へ。実はここ、よく歩く通りにあるので存在は知っていたけれども、最初に入ったのはつい最近、東京の友人に薦められてのことだった。ルーツは東京の名店とのこと。野菜ジュースとカレーを頼んで、先に来たジュースを全員ほぼ一気飲み。カレーを待ちながら、そういえば万歩計があるんですよと出して見たら、約15,000歩。ひとさまを歩かせていい歩数ではないような気がする。そりゃジュースも一気飲みだわ。まことに申し訳ない。
カレーきました。わたしのは、なすのカレーとやさいのカレーのコンビネーション。
(左:なす 右:やさい)
やさしい味なんだけど、スパイスはしっかり効いててうまい。二人はキーマカレーとバターチキンのコンビネーション。どちらも美味しいと大好評であった。お連れしてよかった。
さてお勘定。いままでぜんぶSさんが支払いをしてくれていたので、清算しましょうと申し出るも、「アテンド料です」「はじめからそう決めていました」とにっこり。抗議はしたけれども、こうした場合、揉めて覆ることはまずないので、ここはありがたく奢っていただくことにした(が、次回はワシが奢るからな、覚えておれ)。
(※そう心に誓ったが、後日も手練れのSさんにあっさり敗北したことは記憶に新しい。11月25日の日記を参照 → 日々雑記 2022 Nov. #3 )
そろそろ二人はお帰りの時間。地下鉄で京都駅へ。地下街を通り、はじめにのぞいた古書市がまだ営業しているのを横目で見て(さすがにもう、ね)、新幹線乗り場へ。二人が切符を買っている間に、向かいの売店で 葵家やきもち総本舗 の「やきもち」を買って渡そうとしたら、なんと売切れであった。そうだ新幹線乗り場の近くでええもん売ってるやん、せめてものお返しにさっと買ってぱっと渡したれ、と思ったのだけど。最後までこんなんで、なんか申し訳なさすぎる幕切れ。次回は必ず一矢報いたい。(一矢報いるとは)
そうだった、本も買ってもらっちゃってたのだった。
飛浩隆『象られた力』(ハヤカワ文庫)、松浦寿輝『川の光』(中公文庫)、辰巳芳子『味覚日乗』(ちくま文庫)。
『味覚日乗』のみ出町で自費購入。ほかの2冊は、はじめの古書市の「1冊300円、5冊1,000円」コーナーにあって、Sさんが「買いたい本が3冊あるんだけど、なにか欲しい本2冊ありませんか? 合わせて買いましょう」と持ちかけてこられたのだった。お会計はもちろん一緒にしないといけないわけで、思えばこのときから奸計に嵌められていたのでは(奸計いうな)。
思い返してみれば、最初から最後まで足任せでダラダラ歩いてただけの一日だった。しかもけっこうな距離を。やたらに歩かせたのにほぼリクエストこなせてなくて申し訳なかったけど、そして徒に荷物を重くしてしまってほんとに申し訳なかったけど、さらにアテンドらしいことをなにもできていないのに奢ってもらっちゃってほんとにほんとに申し訳なかったけど、二人とも楽しんでくれていたようで、それだけはよかった。またの機会があればいいな。わたしもとても楽しかった。
あ、タイトルですか? 勢いに任せて書いていて生まれたフレーズが妙に気に入ったもので、とくに意味はないです。しかしけっこういい線いってる気がします。真理なのではないかとさえ思います。ええ、酒飲んでます。
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