DAY 1
7月8日(水)
本日のアサガオ。
朝
つくりおきミックスサラダ。
つくりおきの豆と穀物入りサラダ・炒りにんじん・きのこのごま炒めで作成。これでつくりおきは食べ切った。そのほか、飲みかけだったトマトジュース500ml弱を一気飲み。
家を出る直前に、ベランダの衆にどぼどぼに水をやり、いってきますと声をかける。
必要書類が揃っているか確認していつものショルダーバッグに入れ、着替えや日用品などを詰めた小さいダッフルバッグを持ち、出発。
病院には早く着いてしまった。待合室で時間をつぶしてから入院手続き。フロアマップをもらい、指示された通り身長・体重を測ってから病棟へ向かったはいいが、いきなり乗るエレベーターを間違え、降りた先で右往左往、突如ここは目的地ではないと悟りいったん振出し(入退院支援センター)に戻る。あらためて地図を見ながら自分の入る病棟へ。ナースステーションで書類を渡し、病室へ案内していただく。ベッドは通路側だった。窓際がよかったな。入浴セットを準備して残りの荷物を片づけ、ベッドに腰掛けて看護師さんを待つ。ほかのベッドはみんな静かだ。
本日担当の看護師さん登場。診療計画の説明を受ける。「その他」欄に、術後の治療予定として「それ、これまでまったく聞いてませんが?」という記述があるのだが……まあ予定は予定として、終わったら説明があるでしょう、たぶん。ふくらはぎのサイズを測られ(血栓予防の弾性ストッキングのため)、リストバンドをつけてもらう。
パジャマとタオルはレンタルすることにしたが、パジャマのサイズ感がわからないのでまだ申込書に記入していない旨を伝えると、Mでいいでしょう、と弾性ストッキングと一緒に持ってきてくれた。靴下はここで穿いて行くことになるが、かなりきつくて穿きにくいので、当日担当の看護師さんが手伝ってくれるとのこと。今日中にオムツ(術後一時的に着用するのだって)を院内のコンビニで買ってくるように指示される。コンビニに郵便ポストがあるのを外来通院時に知ったので、病院から手紙を出すのも面白かろうと思って準備してきた絵葉書にメッセージを書く。
昼
味、薄いのかなーと思っていたらそうでもなくて、うちの味つけと同じくらいなのでふむふむと食べていたら、香草パン粉焼きに添えられた茹でキャベツにはまったく塩気がなかった。そんな罠が。
食後、歯磨きをして、マウスピースの受け取りと、歯のクリーニングをしてもらうために歯科へ行き、帰り道でコンビニに寄ってポストにハガキを投函、オムツと水を買い、病室に帰る。マウスピースとオムツを看護師さんに渡し、水を冷蔵庫にしまう。飲み物と果物専用の小さな冷蔵庫は有料で、24時間200円。テレビ視聴用のカードと共用。テレビはたぶん見ないので、冷蔵庫専用になるだろう。
しばらくしたらシャワー浴をして、パジャマに着替える。Mサイズ、幅は問題ないけれども、丈がつんつるてんだ。いつの時代の人の標準なんだ、これ。まあ採血や点滴で袖をまくったりはするだろうけど、ズボンはここまで短くなくていいのではないか。すねの半分くらいまでしかないぞ。
部屋に帰ったら、超音波検査室にマーキングに行くよう指示される。つんつるてんのパジャマを着て院内を歩くのはかなり恥ずかしい。行ってみると、先生がまだ来られていないので待合室で待つように言われる。いつもなら持参した本を読んで待つのだけど、今回はあいにく手ぶらである。本棚から絵本『オオカミのエリック』を取り、読みながら待つ。つんつるてんのパジャマを着て、絵本を読む中年。もうどうでもよくなってきた。周りの人も気にしてはいない(たぶん)。
呼ばれて検査室に入る。先生方3人に取り囲まれ、エコーで中を見ながらここをこう切る、ここは太い血管があるので気を付ける、などと皮膚にマーキングされる。すべて終わって主治医の先生が「原始的ですみません~、マジックです~」と笑いながら油性ペンを見せてくださる。えっ普通の油性ペン? なんか医療用の特殊なやつとかじゃなく? 「普通のマジックです~」 そんなもんですか~。
部屋に帰り、やれやれ、これで夕食まではなにもなかろう、と寝転がっていたら、麻酔科の先生が来られた。次は手術室看護師さんと薬剤師さんが入れ替わりで訪ねてきて、説明を受ける。忙しいな。
やっと静かになった。ベッドに寝転がっていると、部屋が明るくなってきた。ああ、ここ西日が入るんだな。隣のベッドの人がブラインドを下ろす音が聞こえる。
夕食といっしょに500mlのOS-1が2本出てきた。夜9時以降に飲んでいいのはこれだけですが、説明の紙はもらいましたか?と尋ねられる。もらっていませんと答えると、ではお持ちしますといい係の方は出ていかれた。そのまま10分ほど待っていたが、帰ってくる気配がないので、もういいやと食事をいただくことにした。
米飯、魚の煮付、なます、卵とじ、フルーツ缶詰(みかん)。
食べ終わっても説明書きはやってこない。ええのか。膳を下げに来た看護師さんに、これ(OS-1)の説明書きをもってくるといわれてそれっきりなんですが、と訴える。すぐ来た。やはり忘れられていたようだ。
することもないのでベッドに寝転がっていると、外で日本語ネイティブのスタッフさんが外国人スタッフさんにレクチャーしているのが聞こえてきた。「そうやなー、看護師さんやったら『お通じ』言わはるな。そう、『お通じ』。いちばん上品な言い方やな。上品言うたらあれやけど。あと『便』も言う。そう、『便』。赤ちゃんとかやったら『うんち』。『うんこ』はあんまり使わんな」 なんでそんな話になったのかわからんが、ちょっと面白かった。
夜9時半消灯。さすがに早すぎるよなーと、もってきたMP3プレイヤーでモーツァルト「クラリネット協奏曲イ長調」をアルフレート・プリンツのクラリネット、ウィーンフィルの演奏で聴くが、意外とすぐ眠くなった。しばらくは早寝早起きできそう……かと思いきや、やっぱり外の音が気になって、眠れそうで眠れない。眠っても人声や物音で目が覚める。病院スタッフの人たちの靴、なんであんなにキュッキュ鳴るの。全員キュッキュいってるんとちゃう?
DAY 2
7月9日(木)
5時ごろに目が覚め、OS-1を飲む。
検温後、OS-1を飲む。同室の人々の朝食が配膳される音を聞きつつOS-1を飲む。それ以外にすることがない。9時までにOS-1を飲み切る。
10時前、はす向かいのベッドの人が退院していき、すぐに新しい人が入ってこられた。
リストバンドを足に付け替え、点滴開始。薬剤の落ちるのを見つめて寝転がっていると先生ズ登場、手術は今日〇時〇分の予定です、前の手術の進行次第で遅れる場合もあるので、呼ばれるまで待っててねー、じゃあ後ほど!と言って去って行かれた。再び寝転がっていると、看護師さん(昨日の人ではない)登場。
看護師さん「靴下穿かれました?」
わたし「まだです(指示待たなくていいんだ?)」
看護師さん「じゃあこれ(手術着)を着て、靴下を穿いてください」
わたし「はい(自力で穿くんだ?)」
昨日聞いたのと違う気がする。そして手術着を着ろと言われましても、点滴のチューブがつながったままなのですが。トポロジー的にどうにかできるのか、これ? いや無理だろ。「あの、これはどうしたら……」「いったん管はずしますね」(言えばやってくれるんだ)(いや、これは言わなくてもやってほしい) この方はたぶん余計なことはしないタイプなのだろう。玄人好み(そういうのがあるのかどうかはしらん)なのか? なんにせよ素人(手術初めて勢)には難度が高い。管を外したら看護師さんは外に出て行ってしまった。取り残されたわたしは、たたんであった手術着を広げて、開いてる方が前でいいのかな、と一瞬考え、切るの前側だしそらそうか、と思う。こういうの、みんなサッと着られるの?ひょっとして、もたもたしちゃうのわたしだけ? 次は靴下……なんだこれ。左右はなさそうだけど、形状としてはただの筒(つま先が開いている)なので、前後がよくわからない。パッケージを見ても穿き方は書いてない。やっぱりわたし以外はみんな知ってる常識なのか。そうなのか。このちょっと織りが密になっているのが踵のところか? それで穿くか。それにしても、きつくて穿くのにかなり力がいる。点滴の針が血を噴きながら飛んでいくのではないか(飛びはしない)。なんとか穿けたが、しわしわだ。そして開いたつま先から足先を出すのか出さないのかわからない。とりあえずしわしわをなんとかしようと悪戦苦闘していると、看護師さんが戻ってこられた。
看護師さん「靴下穿けました?」
わたし「足は入りましたが正解がわかりません」
看護師さんが靴下を直してくれて、点滴の管を再びつないでくれた。
予定時間にお呼びがかかった。貴重品ボックスに施錠して、カギを看護師さんにあずかってもらい、連れだって手術室へ。別に緊急手術じゃないのでストレッチャーで運ばれるようなことはなく、点滴棒を押しながらふつうに歩いていく。入室して、病棟看護師さんと手術室看護師さんで書類の確認、その間にわたしはあのシャワーキャップみたいなものをかぶり、マウスピースを装着。メインの部屋?に移動。執刀医の先生に名前と手術する場所を尋ねられて答えたのだけど、マウスピースのせいで発音が不明瞭になる。あれだ、入れ歯が合ってない人がふがふがいってる感じ。あれ、誇張じゃないんだなーと変なことに感心する。手術台に上がって横になり、腕に血圧計のマンシェットを巻かれ、その他なんだか体にいろいろ付けられ、マスクをあてられて深呼吸を数度。
「眠くなるお薬入れますね~ すぐ眠くなりますよ~」 ほほう。眠気はどんなふうにやってくるのか、楽しみだ。「手術は成功しましたよ~」 マジか。ワシいつ寝たんや。
その後また眠ってしまったらしく、気がついたら病室だった。看護師さんが「これ、お返しします」と貴重品ボックスのカギをベッドのマットレスに置くので、いや、今そこに置かれましても……と思ったところまでは記憶がある。つぎにはっきり目が覚めると、手首にカギがつけられていた(温泉の脱衣場とかにある感じのやつね)。何度も眠ったり覚醒したりを繰り返したようだ。そのどこかで主治医の先生が「もう、た~いへんでした~ 〇〇にまで癒着してて~」とニコニコしながらおっしゃっていて、執刀医の先生が「これ!取ったやつです!メインじゃない方!」とジップロック(たぶん違う)に入ったナニカをうれしそうに見せてくれた記憶があるが、いつの段階かはわからない。そして「メインの方」は見せてもらったかどうか定かではない。
検温の際に「いまの痛みは10段階でどのくらいですか」と尋ねられる。これがけっこう困る。痛みなしが0、これはわかる。今まで経験した中で最大の痛みが10、これはわからない。痛みって覚えていられるものなのかな。わからんので適当に「3か4?」などと答える。麻酔科の先生にも聞かれた。「痛みなしが0、想像を絶する痛みが10として」 最大値が想像を絶してしまったら評価のしようがないのでは、と思いながら「3か4?」。
眠っては検温で起きることを繰り返し、夜になった。一度痛み止めを入れてもらう。消灯後も頻回に検温。術後6時間経ったら水を飲んでいいということで、看護師さんにたのんで冷蔵庫から水を出してマグカップに注いでもらう。ストローは持ってきていなかったので、ふつうに、ゆっくり飲む。うまい。
明け方の検温で「痛みはどうですか?」と尋ねられ、傷の方は耐えられないほどではないですが、ずっとあおむけで腰が痛いです、と答える。では横向きに、と体の向きを変えてくれたが、この姿勢だと腰は楽だが傷が痛むことがわかった。結局またあおむけになる。
DAY 3
7月10日(金)
ベッドで歯磨きをして、採血。その際点滴の針が抜かれた。あったかいタオルで体を拭いてもらう。クリニカルパスでは今朝から食事再開ということだったが、食事は来なかった。思った以上にがっかりしてしまった。
リハビリ開始。看護師さんに付き添われてそろりそろりと廊下を歩き、廊下に置かれた体重計に靴のまま乗って体重を測り、そろりそろりと歩いて部屋に帰る。ちょっとふらついたが、まずまず歩けた。「レントゲン撮りに行くの、どうしますか?ひとりで歩いて行ってもらってもいいし、車いすで連れて行ってもいいですし」と尋ねられ、いけそうな感じなので、ひとりで行ってきます、と答える。
よちよち歩いて行ってレントゲンを撮り、帰り道で水を買おうと思ったら財布を忘れてきていたのだった。よちよちと病室に戻り、サコッシュに財布を入れ、ドレーンバッグの入ったポーチといっしょに斜めがけにして、またよちよちとコンビニへ向かい、水を買ってよちよち病室へ戻る。さすがに疲れて少し寝た。この顛末を看護師さんに話したら、「術後の運動量じゃない」と笑われ、回診時に先生ズに話したときも爆笑された。ま、笑われてたからおっけーでしょう。
のろのろと起き上がり、引き出しからMP3プレイヤーを取り出す。術後初ミュージックはライ・クーダー『チキン・スキン・ミュージック』。
昼
米飯、魚の中華風天つゆ、煮豆、酢の物。
今日はまだトイレに行く以外で歩くことはないけど、起き上がるのがわりとたいへんだ。両手でベッドの柵をつかんで、ほぼ腕の力だけで体を起こさなければならない。
午後の回診時、先生に「明日退院予定でしたけど、想定より大きく切ることになったので、どうしても明日帰りたいということでなければ、もう少し休んでいきませんか」と尋ねられ、まだ足元がおぼつかなくて、ひとりで荷物をもって電車で帰ることを考えたら、その方がいいように思います、と答える。「うん、その方がいいですね。週明け、月曜日に退院ということにしましょう」ということになる。こんな状態で明日退院できるのかと思っていたので、少しほっとした。
晩
米飯、松風焼き、浸し、野菜スープ。
今日は日中うとうとと寝たり起きたりしていて、夜眠れるのかと思ったが、心配なさそう。
DAY4
7月11日(土)
身元引受人になってもらった以上、妹には退院が延びたことを伝えなければならないので、LINEする。明日見舞いに来ると返信あり。
入院中に読もうと思って持ってきた本は、まだほとんど読めていない。朝の検温が終わって、そろそろちゃんと読むかとジョゼフ・コンラッド 著 / 高見浩 訳『闇の奥』(新潮文庫)を開いたら、また「〇〇さーん(わたしの名ではない)、失礼しまーす」と看護師さんがカーテンを開け、「部屋間違えましたー、すみませーん」と閉めて行った。
朝
米飯、みそ汁、煮びたし(なす)、ふりかけ、チーズ、牛乳。
パック牛乳を飲みなれていなくて、ストローを刺したら噴き出してこぼしてしまった。
エレベーターで1階まで降りた。土曜日で外来は休診、人気のない院内を突っ切ってコンビニへ行き(開いててよかった)、水を買って部屋に戻る。
もう検査もないし、ゆっくり本が読めるかなと思ったが、今日は車いすトイレの工事をしているとかで、結構大きな音がしていて集中できない。
昼
米飯、クリーム煮、サラダ、ノンオイル青じそ、漬物(福神漬)、!。
「!」? なんかサプライズでもあるの?(なかった)
昨日の歩行訓練の際、食堂でお湯を汲んだり見舞客と話したりできると教えてもらったので、家から持ってきた350mlのマホービンを抱え、よちよちとお湯を汲みに行ってきた。そして持参のお茶を淹れる。
うん、これはいいな。
工事の音にも慣れて、読書がはかどる。『闇の奥』は過去に岩波文庫、原書、光文社古典翻訳文庫で読んでいるが、まあ覚えていないこと甚だしい。何度読んでも楽しめていいけど(この小説、楽しいのかといわれたら、それはどうだろう)。
晩
汁物がないので、昼に汲んできた白湯の残りを飲む。
隣のベッドが空いたので、わたしのカーテンに強烈な西日が当たっている。
消灯前、食堂にお湯を汲みに行く。朝飲もうと思う。
DAY5
7月12日(日)
5時前に目が覚め、昨夜汲んでおいた白湯を飲む。
起床時間になったら、散歩と称して隣の病棟との境まで歩いて戻る。途中、食堂の窓から外を眺める。
米飯、みそ汁、しぐれ煮、梅干し、牛乳。
食事とともに白湯の残りを飲み、食後、新しいお湯を汲んできて、持参の紅茶を淹れて飲む。
ドレーンの管が抜かれ、傷口にガーゼを貼ってもらった。今日からシャワー浴してよいとのこと。
昼
米飯、豚肉くずあん、炒煮、磯和え。
食事とともに白湯の残りを飲み、食後、新しいお湯を汲んできて持参の紅茶を淹れて飲む。
妹が見舞いに来た。カーテンを開けて、なんだか大きな紙袋をテーブルに置いたので、えー、見舞いの品なんていいのに、と思ったら、「もう(家への)お土産を買った」とか抜かす。さすがはわが妹、想定外の動きをする。食堂へ移動して、妹家の人々の近況などを聞く。面会時間終了、水を買いに行くのでついでに見送ることにした。ナースステーションで手続き中、家への土産を部屋に置いたままなことを思い出し、土産、土産!といったら、妹はわたしが土産を持たせようとしているのだと勘違い、いや、自分ち用に買ってたやん、というと、「こんなときにもわたしに土産をくれようとするなんて、と思った」とか抜かす。さすがはわが妹、想定外に果てしがない。
入り口まで妹を見送り、コンビニへ行って水を買い、部屋へ戻る。
シャワー室は男女で利用日が分かれていて、今日お呼びがかからなかったということは利用日ではなかったということ。久々のシャワーを楽しみにしていたので、残念。明日は退院だし、家までシャワーなし。
晩
食事とともに、白湯の残りを飲む。
消してあるの、冷やし中華だな……冷やし中華、食べたかったな。
『闇の奥』は第2章の途中まで。清々しいほど何も覚えていない。
DAY6
7月13日(月)
5時前に目が覚め、昨夜汲んできた白湯を飲む。
起床時間になったら、散歩。食堂の窓から外を眺める。
米飯、みそ汁、浸し、味付のり、茹卵(パック塩)、牛乳。
食事とともに、白湯の残りを飲む。
味付け海苔のパックを開けたところで先生ズ登場。「食事中にすみません~」 またベッドに横になって傷の様子を見てもらう。先生ズ退場後、食事再開。食後、マホービンにマグカップ1杯分のお湯を汲んできて、紅茶を淹れて飲む。
午前9時ごろ、看護師さんによる退院指導。10時退院でしたよね?と尋ねると、もう請求書はできているので、いつでも退院オッケーですとのこと。
服を着替えて荷物をまとめ、退院しましたメッセージを絵葉書に書く。ここの「病院内郵便局」は、敷地内にあるけど建物の外で、当然入院中には行けないので、帰りにそこで風景印を押してもらって出すことにしたのだ。準備できた。よし退院。パジャマをベッドに置いて、ゴミを捨て、ナースステーションにお世話になりましたと挨拶、入退院支援センターで請求書をもらい、支払機でお支払い(高額療養費制度がなかったら血を吐きそうな金額だった)、晴れて自由の身となった。
娑婆に出たら、最初に何をしよう。なんて考えるまでもない。あれだ。昨日の夕食の、消してあったアレ、冷やし中華への思い断ちがたく、退院したら必ず食べよう、朝からそのことばかり考えていたのだ。そうだ、あそこに中華飯店があったではないか、わたしの通院日はだいたい木曜で、木曜はたしか定休日なので入ったことがない店。行ってみた。
閉まっていた。おまえはいつもそうだ。おれのために開いていたためしがない。なお冷し中華は始まっていた。
失意のわたしはそのまま電車に乗り、最寄り駅の近くの商業施設に入っている中華料理店へ吸い込まれた。この店でも冷やし中華は始まっていたが、あの店で食べられなかったことが残念過ぎて、ここで食べる気にはなぜかなれず、炒飯セット(1,200円)を注文した。
娑婆の濃い味が五臓六腑に染み渡る。しかしわたしの心は満たされないままだ。待っているがいい、鐘園亭。おまえの冷やし中華を食べてはじめてわたしの入院生活は終わるのだ(そんなわけはない)。
帰宅、即ベランダへ。オレンジミントが少ししょんぼりしていたが、ほかは皆元気でいてくれた。たっぷり水をやり、ただいまと声をかけた。
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