2022-01-15

多治見・名古屋 0泊2日 Day 1――冬の18きっぷ旅 2022

実家暮らしで体が寒冷地仕様になり、これはいけるんじゃね?と思って昨夜ベランダキャンプしてみたものの、わずかな期間で暖地仕様に戻ってしまっていたことを痛感した麩之介です。皆さまいかがお過ごしですか。人体の不思議を目の当たりにしておられますか。

以下は日記に書いていたところ、あっさりした記述ではもったいないほど充実した二日間であったため、ここに独立させたものです。


1月9日(日)

午前7時30分ごろ、うちを出る。昨年の末、使いみちを決めていない18きっぷが2回分あって、それでずっと行ってみたいと思っていた東海地方のある場所に行こうかな、そこに行くならその近辺で見ておきたいところがほかにもあって……なんて話をある方としていて、じゃあ年明けに一緒に行きましょう、行きたいところに全部行くとすると、けっこう時間がかかりそうだし、なんなら買い物編と見物編、2回に分けて行くといいんじゃない?てな話になったのであった。本日は見物編(のはずであった)。

最寄りのJR駅に到着、駅前のコンビニで梅風味のグミキャンディをひとつ買い、改札を通る。18きっぷの旅では必ず駅員さんのいるところを通らなくてはならないが、そこで問い合わせなどが発生している場合が多く、時間は余裕を見ておかないといけない。本日はスムーズに通過。ホームで電車を待つ間、本を読んでいようとかばんを探る。入ってない。なんということか。

時間つぶしに、目に入るものをいま勉強中の韓国語に翻訳していく。「あそこに人がたくさんいます」→「저기에 사람이 많이 있어요」 日曜で向かいのホームに人は少ないのだが、「少ない」がわからなくて「多い」でやった。いいんですよ、こういう強引なので。慣れることが大事だと思うから、どんどんやる。「いいえ、人はたくさんいません」→「아니요, 사람이 많이 없어요」(軌道修正) 「わたしは本を買います」→「나는 책을 사요」(売ってません)

そうこうするうちに電車が来る。乗車してしまえばこっちのものだ。近江八幡から先へはあまり行かないので、景色を見ていて飽きることはない。米原から先は伊吹山を見るのが楽しみ。遠くに見えてきただけで心中かなり盛り上がる。


近江長岡を出たあたりが、いちばん大きく見える。


冬の伊吹山は格別。

10時半ごろ名古屋着。駅改札で同行してくださる方と落ち合い、まずは喫茶店へ。名古屋に来たからにはモーニングを楽しみたい。


コンパルのモーニングセット(550円)はハムエッグとキャベツのトーストサンド。
本日の連れの方は「本を忘れた」というわたしの呟きを見て、帰りもあるだろうからと文庫本を1冊持ってきてくださった。ほかに、以前お借りしたいといっていた映画のディスク。ありがたいありがたい。

本日の予定は、中央本線で多治見駅へ行き、バスを待つ間、近くの商店街にある宝石・時計・眼鏡の店だったビルをリノベーションしたという複合施設内にある書店を見て、そのあと1時ちょうどのバス(通勤時間帯以外は1時間に1本以下)でモザイクタイルミュージアムへ。2時台は便がないため3時38分のバスで駅へ戻り、定光寺散策ののち名古屋でお茶して解散、という段取り。完璧だ。ということで、さっそく多治見へ向かう。

多治見駅には


このようなキャラが。河童の顔、胴体、足、甲羅+うなぎの胸びれ、尾ということのようだ。うなぎよりは河童成分が多いように見受けられるので、「うなぎに似た部分もあるが種としては河童」という意味で「うながっぱ」と名付けられたのだろうかと一瞬思ったが、そういうことではなく語呂の良し悪しなのだろう。「かっぱぎ」では盗人っぽくて印象が悪いしね。同行の方によると、このあたりはうなぎが名物とのこと。河童は……なんかあるんでしょうね、伝説が。後で調べたら、やなせたかしデザインなんだって。

駅の観光案内所でもらった地図を頼りに歩き出す。たしかにうなぎ屋さんの看板が多い。少し歩いたところに、こんな貼り紙が


ご入店はたしかにお断りされているが、それはただ今満席のためではないように見える。

元宝石時計眼鏡店のビルのある商店街は歴史が長いようで、味のある店が多くて歩くのがとても楽しい。件の書店のあるヒラクビルに到着。入り口に様々な都市の現在時を示す世界時計があるのがなんとも懐かしい雰囲気。ざっと見ただけだけど、内装も面白い。もう少しゆっくり見たかったのだけど、バスの時間が気になるので駅へ戻る。

「時間が気になる」というわりには(わたしが)無頓着であったため、バスに乗り遅れた。全面的にわたしが悪かったです。ごめんなさい。

「明日もあるさ」と今日は買い物編に切り替え、オリベストリートへ行くことにした。この前多治見に来たのは、2019年ではなかったか。そのときはたしか歩いて行ったが、今回はバスで。「オリベストリート」というバス停があるものと思いきや、最寄りは「本町」だったため、のんきに座っている我々に、運転手さんが「オリベストリートに行かれる方、ここです」と教えてくださった(オリベストリート自体、正式には「本町オリベストリート」だったのですね)。礼を言って下車。「その通りを右」と教えてもらった道で、「こっち(左)はなにがあるんでしょうね」なんていいながら道の左側を見ていた我々に、左折しようとしていた運転手さんはわざわざバスを止めて「あっち(右)です」。さっきの今で「ものすごい方向音痴だが大丈夫だろうかこの人たちは」と思われたのであろう。申し訳ございませんでした。

オリベストリートにはうつわの店やアンティークの店が多く、歩いているだけでうきうきしてしまう。メインストリートから一筋はずれたところにある古道具店を覗いていたら、ご主人が気さくに声をかけてくださった(後で見たオリベストリートのHPに「気さくな店主とお話をしながら、お気に入りを見つけることができます」と紹介されていたが、まさに)。入り口近くのガラスケースをガン見していたら、ご主人が「かわいい」と思ったものをそこに集めたとのことだった。金魚の豆皿(かわいい)や子犬の土人形(すごくかわいい)に心を奪われたが、まだ散策をはじめたばかりだし、またあとで戻ってきてもいいわけだと、おいとまする。

事前に「ここに行ってみたいですね」と話していた、不定期営業のアンティークショップ。


開いててよかった。さすがタイルの本場、装飾タイルがいい感じ。こちらもご主人が気さくに話しかけてきてくださった(ヤシカのカメラの話で盛り上がった)。連れの方は感じのいいガラス皿を購入された。

あっちこっちの店を覗きながら通りの端まで行き、引き返す。どうしようか悩んだものもあるけど、結局わたしはなにも買わずに終了。

帰りは駅まで歩いてみた。

ナイスなガムテ看板


「カ」のはねの部分の表現力よ。「オ」の縦棒の下の方が剥がれており、風に吹かれてひらひらしていたのがなんとも切ない。動画で撮るべきだったかもしれない。

ガムテ看板の写真の奥にちらっと写っていた、角地の理髪店のナイスなタイル装飾


圧巻。

艶めかしい招き猫



横から見ると特に、なにかいけないものを見ている気になる。ハダカ感が強いというか。

ながせ商店街に到着、もう一度ヒラクビルに立ち寄る。こんどはゆっくり見ていこう。まず入ってすぐ正面にある階段を上って2階へ。床は赤いじゅうたん張り、奥には以前商談に使用されていたらしきソファが置かれ、面陳棚はタイルで装飾されている豪華な空間。壁面の赤本コーナーが浮いているというか、ちょっと違和感があるような。トイレの入り口にはカブトムシのオスとメスが描かれている手描きタイル。「オスメス(男女)どちらでもお使いいただけます、ってことじゃないですかね」とか思いつきでいったが、あとで1階のトイレを見たら、そちらにはライオンのオスとメスが描かれていたので、どうやら正解だったらしい。そのほかにもいろいろと面白い工夫があって、これは写真を撮ってもいいか聞けばよかったなと後悔した。内装を見たあと、棚の内容を見る。「ひらく本屋」、選書も陳列もよく考えられているいい書店だなと思った(ただ、文芸書コーナーが単行本も文庫本も一緒に、海外作家も含めて著者の五十音順で並んでいるというのは、ひょっとしたら探しにくいってこともあるんじゃないかなと思わぬでもない)。またぜひ訪れたい。

多治見駅まで帰ってきた。次は定光寺へ。ここを一度見ておきたいんです、という話からこの旅の企画が始まったのだ。最初に来た快速電車に乗り高蔵寺で下車、普通電車で一駅戻って定光寺へ。たった一駅で秘境感が漂うのがすごい。崖側のホームに到着。我々のほかに4人組の若男子が下車した(降りる人いるんかと思ってしまった)。川側にある改札を出て階段を下りる。上を見ると、こう。


ここから名古屋方面に少し歩くと、元旅館の廃墟。


一緒に降りた若男子たちは「うおー怖えー!」などと盛り上がっていた。肝試しだろうか。

橋を渡ってみる。橋の両サイドには灯篭型の電灯があるが、うちのひとつは


つかないもなにも、電灯がない。左記がどこだかもよくわからない。

電車が来たので橋の上から撮ってみる。


いい風景ですね。


けっこう本数は多い(停車しないものも含めて)。

日も暮れてきたし、帰るとしますか。着いたのが4時半過ぎだったので、あまりうろつく時間もなかったが、楽しかった。18きっぷの時期ではないけれど、春と秋に公開される愛岐トンネル群も見てみたいし、またいつか。

名古屋方面ホームにはこのようなコラージュ作品。


複数の人のタッチが混在している(著作権的にどうなのというシルエットなども)。それにしても



この怖いどんぐりたちはなんなの……

定光寺から名古屋まで電車で30分、秘境と都会がそんなに近いとは。日が沈んだら少々寒くなってきたので、あったかいものでも食べようと店を探す。某有名味噌煮込みうどん店には行列ができていたのであきらめ、名店街の飲み屋できしめんをいただく。(かまぼこが白飛びしている……)


甘めのつゆで、こういうのが名古屋味なのかなと思ったら、ここの店のは標準より甘いのだそうだ。でもおいしかった。

我々は明日の予定を確認後、JRの改札を通り、別々のホームへ。18時45分発の快速 大垣行が停車中だったが、その15分後に新快速 米原行があるので、どうせそれに乗ることになるだろうし、ならばいったん金山に戻って乗車すれば、混んでいても名古屋で座れる可能性が高い、よしそれでいこう、と反対方面のホームに移動。

しかし待てど暮らせど電車が来ない。大垣行も発車しない。どうなってんのと思ったところでアナウンスが入った。東海道線のどこかで貨物列車が異音を検知、現在点検中とのこと。これはどうすべきなのだろう。とりあえず東海道線下りホームに再び移動。運行の予定は立っていないと繰り返される中、名鉄線で岐阜まで振替輸送をするということで、人がどんどん下りていく。よくわからないが、運転見合わせしているのは名古屋‐岐阜間なので、岐阜まで行けばなんとかなるかもしれない。が、岐阜発なんてあったっけ? あったとして、通常通り運行しているとは思えない。よし駅員さんに確認だ。長蛇の列に並ぶ。わたしの後ろにもどんどん人が並んでいく。やっとこさ改札に行きつき、18きっぷを見せて「京都まで行きたいんですが、どうしたらいいですか」と尋ねると、「振替は岐阜までしか行かないので」といわれる。はっきりどうしろといってくれないけれども(言い切るわけにはいかんのだろう)、要はいま岐阜に行ったところでその先はないということか。「じゃあここで待ってた方がいいですか」と重ねて尋ねると、そのほうがいいだろうとの返事。しゃーない。ホームに戻って大垣行に乗り、動き出すのを待つことにする。

暇なので、お借りした本を読もう。その前に、




こんな三段落ちみたいなことをやって遊ぶどうしようもないわたくし。だがなんと、それを読まれた方が即DMをくださった。家に泊まっていきなさい、迎えに行くから、と。すみません、泣いていいですか(返事を待たずに泣く)。

そのDMに気づいたとき、間もなく運転を再開するとの報が入った。お礼をいい、もうすぐ動くみたいですと返信。もし乗り換えがうまくいかなかったら、名古屋まで戻って泊まりなさい、気兼ねはいらないからというお返事がきた……すみません、泣きます。

予定を1時間半過ぎて、電車が動き出した。岐阜駅に着いたとき、ここを過ぎたらたぶん後戻りはできないのだろうなあ、と思う。まあそのときはそのときだ。さすがに腹が減ってきたので、朝買ったグミキャンディを食べる。そして大垣着。改札階は人でいっぱい。空いている場所を探し、壁にもたれて状況が改善するのを待つ。大きな声で駅員さんを怒鳴りつけている人がいる。殺伐とした空気の中、やっと「米原行の計画列車は22時2分、2番線から発車する予定です」とのアナウンスが聞こえた。「予定」の部分に力がこもっていた。「変更になるおそれがございます」まあそうだろうな。あまり期待せずに2番線に降り、列に並ぶ。

昨日まで実家の寒さで鍛えられたとはいえ、さすがに寒いよなーと思い始めたころ、なにやら動きが。しかし震えながら待つ我々が聞いたのは、「2番線に入ります電車は回送電車です。このあと車庫に入ります。ご乗車にならないでください」というアナウンス。落胆のため息が聞こえる。しばらくして、灯りの消えた電車がホームに滑り込んできた。「なんでここに停まるの」「さっさと車庫に行けばいいのに」といった声が本当に聞こえた。冗談ではあると思うが、いいたくなる気持ちはわかる。

30分も経っただろうか。我々の前で停車中の回送電車の車内照明が灯った。見上げると「回送」だった行先表示が「新快速 米原」になっている。まさか……まさか君が? そしてアナウンスが入る。「2番線に停車中の電車は21時58分発、新快速電車の米原行です」 君が……「車庫に入るならここに停まるな」「車庫に帰れ」と心ない声を浴びせかけられた君が、我々を米原に連れて行ってくれるのかっ! 静かに安堵の空気が広がる。それはまさしくヒーローが誕生した瞬間であった。(※「帰れ」等の声はほんとに聞こえたけど、本気で怒ってる人はいなかったと思う)(たぶん)

当初の予定より少し早く、ヒーローは大垣を出発、出た途端にがくんと急停車。「お客様が電車に接近したため」と説明があった。どうしても乗車したかった人がいたようだ。そのあと電車はすぐ走り出したので、その人にけがはなかったと思われる。その人もどうか無事に帰れますように。

それからは問題なし。米原ではさほど待たずに京都行きの普通電車が来て、乗車するとすぐに出発した。あ、まったく問題なしではなかった。わたしのスマホのバッテリー残量が問題なのであった(この時点で10%を切っていた)。心配して声をかけてくださる方々に短く返信するのがやっと。なるべくスマホは見ないことにして、お借りした山本昌代『源内先生舟出祝』を読む。セリフが多くサクサク読める。源内先生が洗い立ての白菜を思い出しているころ、わたしはJRの最寄駅に着いた。間にあわないかもしれないと半ば諦めていた地下鉄の終電にもギリギリ間にあった。反対方面行きの最終電車はもう出た後だったので、ほんとに運がよかった。そして日付が変わる直前、わたしは帰宅をなした。スマホのバッテリー残量4%。見たことないわ、こんな数字。モバイルバッテリーをポチっておかねばなるまい。


今回はとくに、ひとの優しさが心にしみた旅だった。ほんとにありがたかったなあ。多治見へは遠回りになるのにわざわざ名古屋まで出てきてくださった同行者の方、帰れなくなるかもしれないわたしに遠慮せず泊まれとお声掛けくださった方々、呟きを見守ってくださった方々、ほんとうにありがとうございました。明日も出かけてまいります。なぜなら18きっぷがあと1回分残っているから。(懲りてない)

(続く)

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