5月某日、快晴。いいお天気でよかった。本日は前々から楽しみにしていたところへ行くのだ。動き回ることになるだろうから朝は軽めにしておこうと、紀文の豆乳飲料 紅茶(妙なのも含めて毎年いろんな味が登場するけど、結局これが一番好きだ)を飲んだ。
さて
『フィールドベスト図鑑 日本の薬草』(小学館)。
使うかどうかはわからないけど、一応これをかばんに入れ、9時過ぎにはうちを出て地下鉄に乗る。Y駅で下車、三条通を西へ。帽子をかぶりリュックを背負った人々(中高年が多い)が大勢同じ方向に歩いているが、多分この人たちと目的地は同じなのではないかと思われる。けっこう人来るんだな。途中、水を持参するのを忘れたのに気づき、ドラッグストアに寄ってペットボトルの麦茶を買う。目的地は三条通から南に入ったところにあるのだけど、曲がり角のところに腕章をつけた係の人がいて誘導してくれていた。親切だ。
来ました。
毎年冬に一般公開している(が、来たことはなかった)京都薬科大学の薬用植物園 御陵園が、今回はじめて(だと思う)初夏に公開するというので。初夏、って今日はもうすでに30℃いってるんじゃないのか。おかしいやろ。5月やぞ。
公開は10時からというので、だいたい10時に着くように来たら、時間前から来て待っていた人々が入場していくところだった。たくさんの人が来園しているので入場制限がかかり、整理券が配られた。わたしがもらったのは24番の札。ちょうどわたしが受け取ろうとしていた時に、「自転車どこ置いたらいいんですか!」とかいいつつ突入してきて、場所をききながら手を出して整理券を受け取っていった二人がいたんだけどね。わたしの後ろにはかなり長い列ができてたのに。ほかにもスタッフさんが数人いたのにわざわざ券を配っている人に聞きに来るってこれ割り込む気マンマンじゃないのか。すごいな。軽く呪ってもいいかな。「おまえらのうちの冷蔵庫の扉がうっすら開いて、帰って飲むつもりで冷やしておいた麦茶が生温くなってますように」程度の呪いならいいかな。とか思いつつ日陰に入って待っている間にも続々と人々が訪れ、隣に来た人の番号がちらっと見えたが120番台。どんだけ娯楽がないんだY区……じゃなくて、植物好きが多いってことか。あと薬好きか。中高年多いからな。薬は好きだろう。好きとかそういう問題じゃないのかも知れんが。あと小耳に挟んだ情報によると、どうもテレビで紹介されたらしい。
いよいよ入場。
広い園内に人が大勢いるので全景は写さない。とくに順路はないということなので、空いているところから回ろうかな、と思ったら
まあこういうことになりますわな。これからが期待される畝。
シャクヤク
花の時期がほぼ終わりなので、綺麗に咲いているのはあまりなくて、これもちょっと終わりかけ。
オランダシャクヤク
こちらは花盛り。よく似ているけど、シャクヤクは「鎮痙 鎮痛 収斂」、オランダシャクヤクは「鎮痛 強壮」と用途が異なるものなのですね。似ているといえばボタンもあって(花は完全に終わってた)、こちらは「消炎 鎮痛 通経 排膿 止血」とのこと。「鎮痛」は共通なんだな。
ボタンやシャクヤクもそうだけど、花を楽しむために植えられることが多い植物で薬効もあるとは、なんて優秀なんだきみたち、と思ってしまうものたちが多数。
シラン
これはわたしの実家の庭にもたしか植えてあった。止血剤・排膿・消炎・緩和剤として利用される。
ヤグルマギク
利尿・強壮に。
ほかにも、イチハツ(中国で民間薬として吐剤・下剤)、タチアオイ(花は利尿、根は民間薬として腸炎の治療)、ビヨウヤナギ(解熱・解毒)、フジバカマ(通経・消渇・利尿・解熱)等々。ムクゲなど花は粘渇性止瀉薬・樹皮は水虫の治療って、なんというマルチプレイヤーなんだきみは。
食卓でおなじみのものたちも、また薬用植物。
ウド(発汗・駆風・鎮痛)
食べるところではなく、薬用には根茎を利用。
チョウセンアザミ(葉および根を肝機能保護、蕾を食用)
アーティチョークですね。これは花が咲いているところを見たかった。この大きさのアザミが咲くと圧巻だろうな。
アマチャ(甘味・矯味料)
花もすごくいい。
甘味料といえばステビア
って誰やゴミ捨てとんのは! と一瞬思ったけれども、「これらの製品に使用されています」ということだな。書いといて。
食用といえば、温室でバニラの花を見ることができた。
はじめて見た。これはうれしい。日本のミツバチでは受粉できないので、人工授粉するしかないそう。一日花で午前中しか咲かず、正午ごろにはしぼんでしまうのだそうで、主に暑さを危惧してではあるけど午前中に来て本当によかった。
食用 番外編(ふつう食用とはいわない): 道草を食うのが趣味のわたくし、食って食えないことはないけど、あまり積極的には食べない植物アカメガシワ
胃酸過多・胃潰瘍に効く……どこにでも生えてきて厄介者扱いされることが多いきみが人の役に立つなんて、泣かせるじゃないか。
へー、これも薬用植物なんだ、というものを中心に写真を撮っていたわたくしだが、ザ・薬草(ダイ〇ーか)というものも撮っている。まずはドクダミ(だいたいなんでも効くので、飲んだり揉んで貼ったりしとけば安心←乱暴)
見ていたらヒメヒラタアブがやってきた。かわいい。好きな花と好きな虫、最高! と飽かず眺めていると、近くのおばさま方の会話が耳に入ってきた。なんでもドクダミ茶を飲み続けている妹さんは顔がつるっつるなのだとか。母が庭のドクダミを刈って干したものを山のように送ってくるので、毎日のように飲んでいるワシの顔は特につるっつるではない。がっさがさでもないけど。ともかくドクダミ茶につるっつるの要因を帰するのは早計ではないか、というか、飲んでみたらいいんじゃない?
ヒキオコシ(健胃)
延命草ともいう。ヒキオコシという名前は、腹痛で苦しむ旅人を見た弘法大師(出たな弘法大師)が道端に生えていたこの草をとって与えると、たちまち治って起き上がったという伝説に由来する。めっちゃ苦い。しかし、なにかというと弘法大師よな。弁慶と並んで伝説の宝庫。薬は見つけるわ、温泉は湧かすわ、岩はへこますわ、水は出すわ枯らすわ、木の実を実らせなくするわって日本のジーザスですな。
トウキ(補血・強壮・鎮痛)
有名どころですね。この方のネームプレートの足元に
突然のいらすとやさん。なぜ唐突にここだけに出現……いや、どっかで見たぞ
これだ。入口のところのポスター。ということで「義経の腰掛石」を見に行ってみた。
これか。ああ、出たな義経という感じ。弁慶(家来なのにね)には負けるけど。まあなんか子供が腰かけるのによさそうな高さだよね。でもねえ、と思っているところに放たれた隣のおっちゃんの「誰が見たんや」という呟きをわたしは聞き逃さなかった。そして吹いた。
そうこうするうちに、終了の時間。いや、もう楽しすぎるわここ。2時間なんてあっという間。もっといられる。まあ買ってきた麦茶があっという間にぬるくなった今日、このままいたら熱中症で倒れそうだけど。いやほんと、マジで良さしかなかったのだけど、わたしが今日ここでいちばんときめいたのは、この花。
ヘンルーダ。ヘンルーダという名はオランダ語由来で、英語では "rue" (common rue)という。同じ綴りの動詞は「後悔する」、古くは「悲しむ」という意味。ウィリアム・シェイクスピアの「ハムレット」で、狂気のオフィーリアがハムレットの母ガートルードに手渡した花。
There's rue for you, and here's some for me.
We may call it herb of grace o' Sundays.
O, you must wear your rue with a difference!
(The Tragedy of Hamlet, Prince of Denmark Act IV Scene 5)
「あなたにはヘンルーダを、これはわたしにも」「あら、あなたはわたしと同じように飾っちゃだめよ!」― 愛するハムレットに「尼寺へ行け!」(説明は端折るけど、「娼婦になれ」といわれたも同然)と突き放され、さらに(勘違いからとはいえ)彼に父親を殺害されたオフィーリア。「悲しみ」のあまりに狂した彼女が「同じように身に着けるな」ということはつまり、ガートルードには「後悔」がふさわしいということ。このセリフの前に、オフィーリアは兄レアティーズに
There's rosemary, that's for remembrance. Pray you, love,
remember. And there is pansies, that's for thoughts.
「ローズマリーをどうぞ、これは記憶の花。お願いよ、愛しいあなた、忘れないで。そしてパンジーも、これはもの思う花」(園にはもちろんローズマリーがあったけど、なぜか撮ったと思っていた写真がどこを探しても見つからなかったという痛恨の事態)といい、それらを手渡し、受け取ったレアティーズは
A document in madness! Thoughts and remembrance fitted.「狂気にあっても、教えてくれるのだ! 考えろ、忘れるな、俺にふさわしい言葉だ」という。続いて、王である兄を毒殺し、その妃ガートルードを娶って王位に就いたクローディアスには
There’s fennel for you, and columbines.
「あなたにはウイキョウ(フェンネル)、それにオダマキを」といい、手渡す。ウイキョウは「追従」、オダマキは「不義密通」を意味する。てことでちょっと気の毒な意味で出してしまったけど、これがウイキョウ
花にはまだ少し早かった。咲くときれいなんだ。
ついでに。
場面変わって四幕7場、ガートルードの口からオフィーリアの死が語られる。その最初の部分。
ついでに。
場面変わって四幕7場、ガートルードの口からオフィーリアの死が語られる。その最初の部分。
There is a willow grows aslant a brook,「小川に柳の木が斜めに張り出し、その白い葉を鏡のような流れに映しています。そこにあのこはきれいな花冠を手にやってきました」―この花冠に編まれた花のひとつ "long purples" が「シラン」と訳されることがあるのでちょっと調べてみたら、これはオルキス・マスクラ(orchis mascula)というラン科ハクサンチドリ属の草で、上にあげたシラン(ラン科シラン属)とは別の草らしい。写真を見たら紫のランですね(そのまんまやないか&シランもやがな)。それにしても、娘たちが呼ぶ「死人の指」という名前もなかなかのものだけど、「慎みのない羊飼いたち」が呼ぶ、「下卑た名前」って、どんな名前なんだろう。どなたかご存知でしたらお教えください(調べる気なし)。
That shows his hoar leaves in the glassy stream.
There with fantastic garlands did she come
Of crowflowers, nettles, daisies, and long purples,
That liberal shepherds give a grosser name,
But our cold maids do dead men's fingers call them.
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