2016-07-23

【Archives】 喜ばしき芋づる式読書――カポーティ→キャザー

2年前、他所で書いた記事ですが、本日、わたしが敬愛する方が、わたしの愛する作家の本を購入されたというので、うれしくなって再掲しちゃったりします。




テーマ:本のこと
 

たぶんどなたもにわかにはお信じになれないだろうが、わたしがブログを始めた理由は、本の感想を書こうと思ったからなんですごめんなさい(糾弾されるまえに謝る)。


もともとは備忘録として読書メーターに登録して、せっかく読んだ本を記録するんなら感想も書いておこうと思い、書いてみるとこれが字数制限があって、思ったことぜんぶは書ききれない。
(余談だが、字数制限があるときっちりその字数で書くという遊びをやりたくなる性分で、読書メーターの感想は1冊をのぞいてすべて280文字で書いている。ちなみにその例外の1冊の使用文字数は、句点を含めて2文字。)
(余談ついでに、じつは読書メーターのほうの感想も滞っていることをご報告いたします)

ということで、基本的に無制限に好き勝手書きたくなっていたところに、ちょうど誘ってくれた人もあり、ブログを始めたのだった。


さてこれがはじめてみると、ぜんぜん書けない。引越し前のブログも含めて……えっ、ちょっと待て、引越し後に感想文1本しか書いてないぞ(いま調べた)。くだらないことばかり思いついてはすぐそっちを書いてしまうという悪癖もあるのだけど、なにかを読むと、いままでに読んだ別の本の記憶があれやこれやよみがえって、書く前にそっちのほうを確認しないと、と思い出した本を読みはじめてしまう。これがいけない。その本を読むと、さらに別の本が急浮上してくるというね。


とまあ、そんな毎日なんだけど、最近ちょっと面白い感じで芋づった(どんな動詞や)のだ。


ある方の記事にコメントして、応酬するかたちでカポーティのことに触れることになって、そしたらカポーティが読みたくなった。カポーティはわたしの大好きな作家なのだが、しばらく読んでいなかった。というわけで、エッセイ集 Portraits and Observations: The Essays of Truman Capote を読んでいるのだ。


0812978919Portraits and Observations: The Essays of Truman Capote (Modern Library Paperbacks)
Truman Capote
Modern Library 2008-11-11by G-Tools


なんせ500ページもあるのでお楽しみが長続き。テキトーに開いたページを読んだりしているのだが、さすがはカポーティ、これ以外にありえない完璧な文章。すごいなあ、いいなあ、これ日本語にうつしかえてみたいなあ、なんてつい思ってしまう。しまうのだが、そげんおそろしかこつ……とか思いつつ目次を見ていて、あることを思い出した。これまた芋づったときのことだ。


この本には、カポーティが死の前日に書き始めた未完のエッセイが収録されている。わたしはこれを、大学図書館の書庫の中で読んだ。

それは18歳のカポーティと、彼の文学上のアイドルである作家との偶然の出会いを描いたもの。これを読んで、わたしはその作家の本を読んでみたいと思ったのだった。


その作家の名前は知っていた。少し前にキャプテン・イグロ(古!ていうかどのくらいの人に伝わるのか)に激似の米人教授の授業で取り上げられ、その作家のたぶん一番有名な本の、一番有名な箇所を読んだ。そのときは、ぜんぜんピンとこなかったんだな、これが。

というわけで、その作家のことはそれっきり思い出すこともなかったのだけど、ある日書庫内で、なんか面白そうなもんないかいな、と物色していて、モダン・ライブラリ版のカポーティをぱらぱらめくっていたら、その作家の名前が目にとまった。へー、カポーティと交流があったのか、と思い、ちょっと読んでみたのだ。

カポーティの文章の魅力もあるのかもしれないが、それに描かれたその作家はなんとも魅力的で、なによりあの口の悪いカポーティが「大好きだ」というのだから、これは読んでおくべきではないか、とそのまま書庫の別の場所へ移動して、その作家の全集から、カポーティが名前を挙げていた本を引っ張り出し た。


そのとき以来、その作家はわたしのお気に入りとなったのだった。


その作家の名は、ウィラ・キャザー。わたしがその書庫で読んだカポーティのエッセイは "Remembering Willa Cather" というタイトルで、その出会いの場面はこんなふうだ。

大雪の日の夕方、18歳のカポーティは、調べものをするために利用していた図書館を出たところで、館内で時折見かける、青い眼の印象的な年配の女性が、タクシーを呼ぼうとしているのに気づいて、彼女を手伝おうとする。ところが雪のせいか車通りがほとんどなく、あきらめて歩いて帰るという彼女を家まで送ることにする。途中、お茶でもどうかと誘われ、ロンシャンのテーブルにつく。そこであれこれ話をするうちに、作家志望であることを口にしたカポーティに、彼女はどんな作家が好きなのか尋ねる。彼はアメリカの作家ではヘンリー・ジェイムズ、マーク・トウェイン、メルヴィルが好きで、と答え……ちょっとくらいならいいかな、訳しても。

「それからぼく、ウィラ・キャザーが大好きなんです。お読みになりましたか、あのすばらしい中篇、『失われた婦人』、それに『わが不倶戴天の敵』を?」

「ええ」彼女はお茶を飲み、少しそわそわした様子でカップを置いた。なにか考えているようだった。「申し上げないといけないことが」といって言葉を切り、それから急きこむように小声で、「それ、わたしが書いたの」

呆然とした。俺は阿呆か。寝室に写真が飾ってあるってのに。決まってるだろウィラ・キャザーだよ! この曇りのない空色の瞳。このショートカットの髪。角ばった顔にがっしりした顎。もう笑えてくるやら泣けてくるやら。

そのあと店を出て、パーク・アヴェニューのキャザーの住居に着いたとき。

「さてと、ここがわたしのうちよ」彼女はそういって、それから唐突に言葉を継いだ。「もしも木曜日、ほかに夕食のお約束がおありでなければ、7時にお待ちしてます。あなたの書いたもの、いくつかお持ちになってね――読んでみたいの」

カポーティはスーツを新調して、短篇を三つタイプしなおし、木曜日の7時きっかりにキャザーを訪ねたのだった。エッセイはこのあと、キャザーがパートナーと住む部屋に彼が招き入れられたところで中断してしまっている。キャザーがカポーティの作品をどう評したのかすんごく知りたいんだけど。まあ悪かったはずはない。そのあとこの齢の離れたふたり(このときキャザー71歳)は親友になったのだから。


この出会いについてカポーティは別のところでも少し触れている。こちらには翻訳があるので、もしよろしければ、『カメレオンのための音楽』所収の「夜の曲がり角」をお読みいただけたりしたならば、ふたりのファンのわたしとしては、うれしいことこのうえなし、なのだ。

4151200193カメレオンのための音楽 (ハヤカワepi文庫)
トルーマン カポーティ Truman Capote
早川書房 2002-11by G-Tools

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