2018-12-29

冬のふらふら旅 2018-19 ― 近江八幡を歩き倒す 1 (長命寺編)

日々体力の衰えを自覚しているというのに、唯一確実な改善策である毎日の鍛錬を欠かし、そのくせ休みの日にはエクストリーム遠足をしてしまいがちな麩之介です。皆さまいかがお過ごしですか。体に鞭打ってますか。


12月某日、通常ならばウチ仕事の日だけれども、休みにしてお出かけしようと決めたので、いつもより遅くまで寝ていてよいのに、妙に早く目が覚めた。遠足だからか。小学生なのか。

起き抜けに生ミント茶を一服。


朝食。


月寒あんぱん(かぼちゃあん)、ほうじ茶。
いわゆるあんぱんというよりは饅頭だった。栗饅頭系の。

ちょっと量が足りない気はするけれども、出先で豪勢にいく魂胆で家を出た。仕事用に買った回数券が諸事情により使い切れないことが分かったので、せっかくだし、それを使って近辺を観光しようではないかという企画である。ふと思いついて調べたら、目当ての場所にはコミュニティバス(1回の乗車で200円)で行けるし、その路線で別の観光名所へも行けそうなことが分かったので、お財布にも優しい遠足だ。

ということで、いつもより1本遅い電車で、滋賀県は近江八幡市へ。いつものバス停で、いつもとは別のバスに乗る。おはようございますと挨拶して乗り込んだが、運転手さんは無言(でうなずいたか、もしくは声が小さすぎて聞こえなかったのかもしれない)。無口な方なのだな。これはあれかもしれないと覚悟する。乗客はわたしひとりだ。いよいよまずい。発車時刻が来る。「発車します」とひとこと、そののち一切無言でバスはゆく。うん、予想通りアナウンスなしだった。基本的に地域住民が利用するコミュニティバスの運転手さんにはたまにおられるタイプで、わたしはいつも利用している路線にはじめて乗ったとき経験済みなのだが、なぜこう毎回乗ったことのない路線の初乗りで遭遇するのか。なにかわたしに問題があるのかと理不尽に思いつめ、車内に貼られた路線図で、通過するバス停と目的地の関係を必死で確認する。途中で「〇〇行きますか」と聞きながら乗ってきたおばあちゃんがいた(このとき運転手さんの返事は聞こえなかったが、無言でうなずいたのだろうか)ので、「この人が降りてから4つめ」と呪文のように唱える。バスは静かに走り、おばあちゃんは降りていき、わたしはバス停を数えてボタンを押し、無事降車に成功。あー緊張した。まあ最初に降りる場所を告げておけば緊張する必要はないのだけど、なんか負けたような気がするので嫌だ。いや負けるって何にだよと自分にツッコミを入れつつ帰りのバスの時間を確認して、出発。

目的地はバス停からすぐ。


西国三十三所 第三十一番 姨綺耶山 長命寺。「いきやさん ちょうめいじ」と読む。619年、聖徳太子の開基と伝えられる古刹である。市内を走るたまご色のタクシーにもその名が使われ、市民に親しまれているお寺。それはそれとして。「本堂まで808段」と。ここまではすぐだけど、ここからは遠いと。ていうかキツいと。


これで十分の一もないと、そういうことですね。朝もっと食べてくるべきであったかと後悔してもはじまらない。下調べくらいはすべきだろうが、わたしの旅はほとんど常にいきあたりばったりなので仕方ない。さいわい水は600㎖ボトルに一杯詰めてきた。いきますか。

のぼる。休む。のぼる。休む。のぼる。休む(給水)。(以下本堂までこの繰り返し)

まずい。まだ半分も来ていないだろうに、もう息が上がっている。ここよりもキツいらしい上醍醐へは何度かのぼったけど、いまのわたしよりもずっと年上の両親が一緒にのぼったことを考えると、わたしはかなり体力がないのでは。中学高校とバスケ部だったんだけどなあってそこからの運動しない歴が長すぎるわけだが。

途中に出現したこれは何。


何らかの門ではあるのだろうなあ。この先はここまでとは違うのだろう。右奥に崩れた石灯篭が打ち捨てられている。

暑くなってきたのでマウンテンパーカーの前を開け、マフラーをかばんにしまい、ひたすらのぼる。どのへんまで来たのかわからないが、上から下りてくる人が見える。見えるのだが、みんな左に折れていってすれ違わないのは何故だろうと思っていたら、駐車場があったのだった。ここまでは車で来られるのだな。ということはきっともうすぐなんだ。

駐車場から現れた三人連れのご家族がわたしの前をのぼりはじめた。すぐに子供が「しんどいー」とかいい出したが、駐車場までぴゅーっと車で来た子供よ、おまえが「しんどい」いうな。ほんで平坦なとこに出てから先の方見て「うわーまだめっちゃ階段あるー」とかいうな。挫けるわ。

挫けている場合ではない。めっちゃある石段をひたすらのぼり……あれ、着いた。


そんなないぞ子供……って、いや、ごめん、まだ階段あったわ。山門を見て気を抜いてはならない、それが山寺。

さて階段を昇りつめ、ここが本堂。(重要文化財。右手が正面)


やっと来た……もうへろへろなので、しばらく石の腰掛に座って息を整え、御詠歌を思いだす。そうだ、「八千年や 柳に長き命寺 運ぶ歩みの かざしなるらん」とうたわれたお寺でございますね。ウチは法事で御詠歌を歌うのですよ。全部は覚えてないけどね。

汗も引いたし、まずはお詣り。わたしにあるのは信仰ではなく敬意なので、手を合わせてはいるけれども、心の中でいっているのは「観音さま、こんにちは。ここまでこれてうれしいです」程度のことだ。

本堂の裏手には巨石。


六処権現影向石(ろくしょごんげんようごうせき)。「天地四方を照らす石」という意味。諸星大二郎『暗黒神話』でおなじみ(?)の武内宿禰が長寿を祈願したとされる巨石、って仏教伝来以前の話だよなあ。巨石信仰の地に仏教寺院が建ったと。石山寺にも名前のとおり巨石がごろごろしてた印象があるけど、そういうものなんだろうかね。

御朱印をいただこうとして、御朱印帖を持ってくるのを忘れたことに気がついた。不覚。書き置きのものをいただいたが、これは大きいサイズのだなあ。切るとバランスが悪くなるので、これは別に保管しておくしかないか。


御朱印と散華。

本堂横は三仏堂(県指定有形文化財)。


阿弥陀、釈迦、薬師の三尊が祀られているそうです。

そのとなりの護法権現社(武内宿禰が祀られている)から東を見るとなかなかいい眺め。


奥に三重塔(重要文化財)が見える。

さらに階段をのぼり、太郎坊権現社へ。


ここからの琵琶湖の眺めはよかった。すっきり晴れているときにまた見てみたい。

さて、下りよう。経験上、長い石段は上りよりも下りのほうが厳しい。膝が笑ってコケたら目も当てられない、と気を引き締めて下りはじめると、小さいお礼の言葉が。


なんかいい。

なんとか転ばずに麓まで戻って来れた。ちょうどお昼時だし、バスが来るまで1時間ほどあるしで、滋賀県名物のこいつに誘われ


蕎麦を食べることに。出前途中で飛び出して轢かれるんじゃないぞ。

入店すると、店内音楽がなぜかハード系 J-Pop だったのでちょっと驚いた。隅っこに座って注文、そば茶をいただきながらつき出しのえび豆と日野菜漬けをつついていると、来ました。


長命そば。
薬味はごま、きんぴらごぼう、ゆず、ねぎ、だいこん、にんじん、水菜、わさび、白菜、小かぶと盛りだくさんでうれしい。蕎麦も美味しい。蕎麦湯が濃くてこれまた美味い。

はあ美味かった。しかし窓の外に見えていたこれはなんだろう。


そういえば長命寺の本堂横の物販スペースにも、スイーツ巡礼の地図みたいなのがあったような。ちゃんと見てなかったけど。

バスが来るまでまだ時間があるので、ちょっと周りをぶらぶら。投棄された粗大ごみだらけの空き地に猫。


でかい。見ていても動じない。が、なにかに気づいた様子で不意に立ち上がり、しっぽをさっ、さっ、と神経質に動かしている。


視線の先にはべつの猫。白がゆっくり近づいていく。


一触即発。どうなることかと見ていたら、キジトラの方が引いたらしく、こちらに向かって歩いてきた。


悠々とわたしの前を通り過ぎる。こいつもでかい。ついていったらうるさがられたか、隙間に入ってしまった。


つまんねーの、とぐるっと回ってみたら、ちょうど隙間から出てきたキジトラと鉢合わせ、まいたと思ったわたしがいたので驚いたのか、走りだした。


すこし走って立ち止まり、こっちをむいて座るキジトラ。


「びっくりさせんなや」 すんません。


「なんや、また来たんか」 すんません。

ぼちぼち来るかなとバス停に戻る。近江鉄道バスが時間調整で停車していた。運転手さんがバスの乗り口に腰かけて飲み物を飲んでいる。のどかな光景だ。寒いけど。ベンチには先客が二人。しばらくして動きだした、後発のはずの近江鉄道バスに乗って行かれた。先発のあかこんバス(近江八幡市のコミュニティバスの名称。キャラクターは特産品の赤こんにゃく)はどうしたんだ。車通りの少ない道なので、ひょっとして早く出てしまったとか、とすると次のバスいつだよ、と時刻表を見ると、約3時間後。えー……まあ近江鉄道バスなら本数あるからそれに乗ればいいか、ちょっとお高いけどやむをえん、と思っていると、待っていたバスが来た。往きと同じ運転手さんだった。

(続く)

8 件のコメント:

  1. 夏樹(@palms308)です
    エクストリーム遠足お疲れ様でした笑
    高松編もあるのでしょうか?楽しみにしてます!
    毎回お写真がかっちょよくて憧れてしまうんですが、カメラは何をお使いなのでしょう
    つい昨日写真始めてみようかなと思い立ったところなんです。良ければ教えてくだされば…!

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    1. 夏樹さん、コメントありがとうございます。

      二日連続エクストリームでした(笑)。高松編もやります、たぶん。

      かっちょよい……うれしいです。ありがとうございます。カメラは今はコンデジとスマホですが、コンデジのほうはキヤノンの PowerShot S95 という機種です。8年くらい前のものですが、よくがんばってくれてます。写真はじめられるのですね! 拝見するのを楽しみにしております。わたくし昔はカメラ屋の店員やってたので、なにかありましたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。

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    2. 返信ありがとうございます!!

      カメラ屋の店員さんをなさってたんでしたね。そいやどこかで仰っていたような
      機種さくっと教えていただきありがとうございます。飲み物を入れたグラスの質感がきらきら綺麗でひそかに麩之介さんのドリンクシリーズのファンだったんですが、そうだったのですか

      カメラ選びは一筋縄ではいかないみたいですね。多因子すぎませんか……
      撮ってみたいものとしてはそういったグラスのような手元の物の質感を正確に撮せたら嬉しいんですが、どの条件が一番効いてくるんでしょう?
      予算は5か6くらいまでなら…むむむ
      難しいですかね…

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    3. ドリンクシリーズ……意外なところにファンがいらっしゃるものですね(笑)。

      質感を正確に、ですか。そっち方面なら、実はわたしはカメラ側ではあまりややこしいことはせず、露出の調整くらいにして、画像編集でなんとか見た感じに近づけるようにしてます。

      カメラって長く使うものですから、まずは見た目が好きなのをいくつか選んで、その中からスペックを比較して、自分の用途に合うものを選び出すと、わりとうまくいくと思うのです。性能に関しては、予算からいって、心配する必要はないと思います。あと、現行機種で気に入ったものがあれば、そのひとつ前の機種が、機能的に大きく異なることはないのですが、値段が下がってたり(笑)。なので、予算よりちょっとお高めのものを探しても案外いい買いものができたりしますよ。

      またなにかありましたら、声かけてくださいねー。

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  2. お参り、お疲れさまでした。
    階段を延々上り、山門が見えてきて気を抜くとまだ階段、というのはよくあるパターンですね(笑)。
    自分は上醍醐を真冬に訪れ、長命寺は初夏に訪れました。
    もしかしたら冬の方が疲労を感じやすいということもあるのかな・・・という気もしてきました。

    六処権現影向石、この写真の角度で見るとすごい迫力ですね。
    琵琶湖近辺のお寺と巨石の関係が気になるところです。

    飛び出し小僧は滋賀名物なのですね。
    先日訪れた竹生島のお土産物屋さんにも飛び出し小僧がいた(島内に車道はないにもかかわらず 笑)ことを思い出しました。
    地元大阪の小僧はだいたいペンキが剥げて酷い状態になっている場合が多いですが、この長命庵の小僧も竹生島の小僧も、何やら綺麗に扱われている感じがします。

    本年もありがとうございました。
    来年も引き続きよろしくお願い致します。

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    1. れぽれろさん、コメントありがとうございます。

      山門からの階段トラップがいちばん挫けるパターンですよね(笑)。
      そういえば、わたしは上醍醐にのぼったの、初夏でしたねー。来年はあたたかい季節に長命寺チャレンジしてみましょうかね。

      >琵琶湖近辺のお寺と巨石の関係が気になるところです。

      わたくしも興味津々です。少し調べてみようと思います。

      飛び出し小僧は、どうも滋賀県に製造元があるらしいという話を聞いたことがあります。東近江市に工場があるとか。竹生島でも飛び出しているのですね。車道がないなら飛び出し放題ですね。わたしはまだ竹生島には行ったことがないので、来年の目標にしたいです。

      近江八幡では、そこここで飛び出してましたよ。たしかにみんなきれいでした。

      こちらこそ、今年もありがとうございました。
      来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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  3. すみませんエラーで返信できてなかったかもしれません
    何度でもお礼言いたいくらいなのであれなんですが重複してたらすみません、とにかくめっちゃ勉強になりました!!!
    見当ついた気がするので年明けにカメラ屋さん突撃してきます!
    年の瀬に相手していただいてありがとうございました
    来年もよろしくお願いします
    良いお年を!!!

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    1. お役に立てたようでなによりです。いつでもウェルカムでございますよ。

      旧年中はありがとうございました。
      本年もどうぞよろしくお願いいたします。
      よいお正月をお過ごしください。

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