2015-12-30

奈良へ...――仏像三昧 奈良国立博物館編

前回の更新以来、えらく時間が経ってしまったのは、資金不足により『白鳳展』の図録を購入しておらず、『正倉院展』 に行ったら買って、それを見ながら書こうと考えていたにもかかわらず、『正倉院展』には行けなかったという事情があったりするのでした。しかたなく出陳品一覧を見ながら記憶を頼りに書いております。記述に不正確なところがあるやもしれませんが、まあそこはインチキ野郎が書いてるので仕方ないと諦めていただけるように、これまでたゆまず精進を重ねてきてよかった、そう心から思う麩之介です。皆さまいかがお過ごしですか。今後も胡散臭さに磨きをかけてゆく所存であります。お、お見捨てなきよう……


(承前)

さて、博物館。


(来たときに写真を撮り忘れたので、出てから撮りました)

本日のメイン・イベント、「白鳳―花ひらく仏教美術―」である。奈良博開館120周年記念特別展なのである。気合が入っているのである。7月18日にはじまり、本日が最終日である。やっとこさ来れたのである。では、見るのである。

受付で京博のパスを呈示して、スタンプを押してもらう。


「開館120年」「白鳳展」とある。展示ごとにスタンプつくるんだなあ、とかどうでもいいことに感心する。

さて、「白鳳」だけれども、歴史上「白鳳」という年号はなく、「白鳳時代」というのは文化・美術史上の時代区分で、大化の改新~平城遷都あたり、飛鳥時代と天平時代の間ですね。この時期の仏像は、飛鳥時代のなんというか「宇宙から来ました」みたいな仏像とは趣が違い、顔は大きくて丸く、ほっそりした体に小さな手、と子供のようなかわいらしい感じがするものが多いという印象なのだけど、さて、どんなものだろうか。さっそく行ってみよう。

プロローグ「白鳳とは」。「白鳳時代」を定義するための文献(明治・江戸時代の史料)2点が展示されていた。読んではみたけれども、わたしはとくに歴史ファンではないので、ほとんど記憶に残っていない。

第 1章「白鳳の幕開け」。このあたりは瓦など、寺跡の出土品が多く展示されていて、わたしのすぐ前で見ている、歴史ファンらしい少年が熱心に見ているのに微笑ましい気分になっていたところ、わたしのすぐ後ろに突然やってきた、歴史ファンらしいおっさんの異様に荒い鼻息が背中から首筋に抜けて、ぞっとして急いで逃げたので、実はあまり記憶がない。

第2章「山田寺の創建」。有名な仏頭は8月下旬の10日間だけの展示で、パネル写真が置かれていた。ホンモノは興福寺の国宝館の、入ってすぐのあたりにいらっしゃる(はず)。ここでいちばん目を引くのがこのパネルという……しかし、阿弥陀三尊像(7世紀)、これよかったなあ。素朴な感じで。

第3章「金銅仏の諸相 Ⅰ」。さて、ここからは本格的に仏像が目白押し。押すな押すなの大騒ぎ。ってなにをいっているのだわたしは。仏像は押さないし、騒がない。騒いでいるのはわたしの心である。しかしここはすごかった。素晴らしい仏像が次から次へと、もうわたし走馬灯見ちゃってるのではないか、これお迎えなんじゃないかと思うほどに、続々と登場するのであった。東京は深大寺よりお越しの釈迦如来椅像(7世紀)、若々しく明るい微笑み、簡素な表現が素敵な有名人(※人ではない)。島根は鰐淵寺よりお越しの、観音菩薩立像(692年)、お顔立ちが愛らしい。そんななか、わたしの心をわしづかんだのは、兵庫は鶴林寺よりお越しの、観音菩薩立像(7世紀)。このヒト(※人ではない)めちゃくちゃいい。帰ってからお寺のホームページを見てしまったくらい、惚れましたです、ええ。ホームページの解説によると、日本の仏像の代表として、ドイツやアメリカにも出張なさったそうで。まさに、わたしがもっている白鳳の仏像の印象にぴたりとあてはまる、愛らしく美しい仏像。ポストカード買いました。


ポスカご紹介。ほら、いいでしょう。

第 4章「薬師寺の創建」。ドキドキする。なにを隠そう、学生時代のわたしを仏像沼に突き落としてくれた、あるいは引きずり込んでくれたのが、薬師寺の薬師三尊像なのだ。そのときの感想を再現しよう。「うわ、真ん中のヒト(※人ではありません)、なんかスゲー!両脇のヒトたち(※人ではない)、キレーだなあ……」 なぜ再現が可能であるかといえば、この程度の感想であるのに加え、あれから20年近くが経つ というのに、わたしが仏像を見たときに感じることが一切進歩していないからである。1.カッコイイ! 2.キレイ! 3.なんかスゲー! この三種でわたしはだいたいすべての仏像を評価している。あと、4.でっけえなあ! てのもあるか。列挙してみると、どう見てもこいつ馬鹿ですね。

しかし月光菩薩立像(7~8世紀)はあいかわらず綺麗だ。そら1,300年以上綺麗だったのだ。というか、1,300年以上前の綺麗が、いまでも綺麗なのだということを思うと驚かずにいられない。感覚の点では、人間って変わらないものなんだなと思う。その表情は静かで、体は若々しくぱーんと張っていて、軽く曲げられた指先、柔らかく腰をひねった立ち姿は優美というほかない。またもや「キレーだなあ……」と見惚れてしまいましたです、ハイ。そして、ここが肝心な点なんだけど、背面も拝見できるのだ。そう、ぐるぐる回れるのですよ。「馬鹿と風車はよく回る」ということわざどおり(※そんなことわざはありません)、もちろんぐるんぐるん回りましたとも。お堂ではまず絶対無理なことだから、アホみたいに興奮した。また背中がね、素敵なんだ。

このほか、聖観世音菩薩立像((7~8世紀)もいらしている。こちらもお美しい。足首までの長さの衣がふわりと軽やかに見える。金属なのにね。


左が月光菩薩、右が聖観世音菩薩。

ここには、仏像以外にも、ものすごいものが。東塔相輪水煙(8世紀)。これにはまんまと吃驚させられた。普段、あの高い塔のそれも最上部にあって、遠目にしか見ることがかなわないものをそのまま持ってきて、目の前にドン!と置いてくれているわけで。こんな機会はまずないもんなあ。というわけでじっくり見る。こうして見ると、デカい。そして楽器を奏で飛ぶ飛天が、生き生きと軽やか。しかし、形状は炎のようなのに、なぜ水煙というのだろう。

第5章「金銅仏の諸相 Ⅱ」 。こちらもすごかった。バランスがこれ、どうなってるの?といいたくなるほどに、異様に大きな顔にほっそりした体、それに異様に小さな手を持つ仏さまなど、ほんとにいろいろあるのだなあと感心。みんな、かたいこといわない感じの、おおらかな印象の仏さまたち。

第6章「法隆寺の白鳳」。すごいですよ、美仏がこれまたぎっしり。国宝の観音菩薩立像(夢違観音 7~8世紀)、体形が優しい感じのこの方。横顔をどうぞ。


お美しい。

あと、これも国宝の阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏 7~8世紀)が、これまた美しいの美しくないの、ってどっちなんだって言い回しがあるよね?(またどうでもいいことをいってしまった) 文殊菩薩立像(7世紀)もキレーだったなあ、よかったなあ(だいぶ疲れてきて、キレーだとかよかったとかしかいえなくなってるな)。金龍寺の菩薩立像(7世紀)は、正面からお顔を拝見すると、なんかぽわんとした感じに見える(失礼)のだけど、この方、右斜め45度の角度で若干下から仰ぐ感じだとですね、超美形ですね。キメ角度ってやはりありますね。ちなみに正面顔はわたしの知り合いに似ていたりする。あ、三重の見徳寺から奈良博に寄託された三重県最古の木造仏である阿弥陀如来坐像(7世紀)も、なんかこんな人身近にいそうで、妙な親近感をもってしまった。仏像のことしかいってないけど、繍仏裂(7世紀)もよかった。このセクションでのお気に入りは、「金堂天蓋附属品」の縦笛吹いてる飛天(7世紀)。かわいい。しかし二尺以上あるんじゃないかな、あの笛。ものすごい野太い音が出るんではなかろうかと思われるのだが、いいのかそれで。そしてひとつだけ残念だったのは、法輪寺の伝虚空蔵菩薩立像(7世紀)の出陳が前期のみで、今回見られなかったこと。奈良博の仏像ライティングはかなりレベルが高く、仏像をじつに美しく見せてくれるので、法輪寺の収蔵庫で見るのとは一味違ってたと思うのだ。


このあと、第7章「法隆寺金堂壁画と大型多尊塼仏」、第8章「白鳳の工芸」、第9章「押出仏・塑像と塼仏」、第10章「藤原京の造営」と続くのだけれども、なにを見たのやら、記憶がはっきりしない。そしてエピローグ「古墳の終焉」 では、高松塚古墳出土品「六花文座金具」(7~8世紀)を見て、「こんな鍋敷きあったら欲しい」くらいの感想しか出ないほどに、疲れ果てていましたね、ええ。もうわたくし、フラフラです。酔いました。これで観覧料 一般 1,500円って安くないですか?

白鳳酔いともいえる症状に眩む頭をひと振りし、ふらふらと展示室を出るとそこはグッズ売場。しかし資金がない。図録を買う金はなく、仏頭メモパッド(そんなものがあったのだ)を買うよりは、とポストカードを5枚買ってその場をあとにし、ミュージアムショップへ向かう。見るだけだけど。ショップの手前には、このようなものが。


「これであなたも唯我独尊!誕生仏なりきりセット!」(21世紀)とか勝手に名前をつけてしまったが、奈良博はいいねえ。裏に回ってみると(べつに顔を出しに行ったわけではない。ないって)、


このようなものが。最初踏み台かと思ったが、蓮弁がついているということは、「唯我独尊お立ち台」(21世紀)だな。片づけられていただけのようである。


こういう状態。踏み台はちゃんとあった。

しかしここのミュージアムショップは充実している。ほしい本がありすぎて困る。困るが所持金がないため、なにを買うか悩む必要が今日はなくてほんとうによかった。大丈夫です泣いてないです。


ミュージアムショップの外の休憩スペースでは、仏像の写真パネルが展示されていた。ベンチに腰かけて、ペットボトルに詰めてきた水道水を飲みながら、ぼんやり眺める。このパネルは撮影禁止。しかしその反対側に、ちょっと面白いものが展示されていた。


仏像の手(印相)の部分のみの木彫(仏像全体の写真と解説付き)。こういうのがズラーっと並べてある、面白い。撮影禁止とは書いてないけど、撮っていいとも書いてないし、どうしよう……とこの前を行ったり来たり。そのうち向こうのほうから館の職員の方が歩いて来られたので尋ねると、素晴らしい笑顔で、「どうぞどうぞ、お撮りください。あちら(写真パネルの展示)はダメですけどこちらは大丈夫ですので」と。よろこんで撮らせていただく。ミュージアムショップでは、この展示のブックレットを販売していたので、次回行く機会があれば(そして資金があれば)、ぜひ買いたい。


奈良博を存分に(金をかけずに)楽しんで、館外に出ると、日がだいぶ傾いていた。鹿様方もおとなしい。そろそろおネムなのであろう。


逆光で見ると、角に毛が生えているのがよくわかるな。

さて、帰るとするか。一日楽しかったな……えっと、なんだキミたちは。


来たときにはまっっったく気づかなかったのだが、いつからいたんだ。まあよく考えたら、来たときは逆方向にある出口から出たので、仮に気づいていたとしたらそっちのほうを何故なのかよく考えたほうがいいわけだが。ところでこいつの角も毛が生えてるのだろうか、とか考えるとちょっと怖くなってきたのが奈良ショートトリップの締めくくりとは、うまいこといかんのう。そしてこの奈良報告のタイトルは実はダジャレなのだが、いっこもうまいことなかったのでおそらく気づいてる人もあるまいのう。精進せんといかんのう。危うく「精進せんとくん」とかいいそうになったが多分やめて正解だったのじゃろうのう。ではまたのう。

2 件のコメント:

  1. この特集、1500円は安いと自分も思いました。
    仏像の数々が本当に面白くて、第2章~第6章あたりだけでも大満足の展示でしたね。
    仏像以外だとやはり薬師寺東塔相輪水煙が印象的ですが、それ以外は自分もあまり覚えてなかったりして・・・。
    自分の過去記事も見返してみましたが、展示の最初の方と最後の方には触れてないし(笑)。

    自分は最近は図録をあまり買わないようにしているのですが(部屋に図録が溜まるので)、記事を読んで改めてこの特集については図録を買っておけばよかったなと思いました。
    ちょっと後悔。

    今回は珍しくお好きな作品のポストカードがあったのですね。

    麩さんの記事は自己ツッコミが楽しい(笑)。
    他に鑑賞された展覧会の記事も読みたくなります。
    来年も楽しみにしております!

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    1. れぽれろさん、コメントありがとうございます。ほんとに凄い展示でしたねー。興奮しっぱなしでした。
      最後のほうの記憶があまりないのは時間が経ってしまったからばかりじゃないのですよ(笑)。見た直後もあんまり印象に残ってなかった。おっしゃる通り、第2章~第6章の充実っぷりが凄かったので。

      図録ねー。これほんと買いたかったんですけど、ポストカード買うのがやっとのお金しか持ってなくて(笑)。次行ったときに買おうと思います。

      ほんとに、わたしのお気に入りはポストカードになってないことが多くて、自分の感性がおおかたの人とズレているのか、そうやって図録を買わせようという陰謀なのか悩むところですが(悩むなよ)、今回はあってなによりでございました。

      マグリットとクレーは書きたいと思ってます。年越えてしまうけど。ということで、来年もどうぞよろしくお願いいたします!

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