そういえば死んだじいさんは、冬場、カニの身に二杯酢とか三杯酢でなく、ただの酢をかけただけのものをアテに燗酒を飲んでい た。ときどきひと口もらっていたが、うまいものだった。貧乏なわたしは、ただいまカニカマに酢をかけたものをアテに飲んでいるが、これもなかなかいけるのだな。
もちろん酒を飲んでいる場合でないことは重々承知之助なのだが。
22日 (日)
午後10時過ぎ、やっとこさ明日納期の仕事が完了したが、明々後日、また別の締め切りがやってくる。そしてそれが終わっても、次々にほかの締め切りはやってきて、とにかく3月なかばまではこの調子。そんでまた次年度はすぐそこなわけだったりして、まったく気は休まらない。しかし休めたい、というわけで、旅行の計画は立てた。連休はムリなので日帰りだけど、それをたのしみに生きていける。目の前にエサをぶら下げておけば、それを食おうとガムシャラに走る程度に人間の出来が単純でよかった。
24日(火)
朝、本をかばんに入れるのを忘れた。通勤電車内は激しい妄想でしのぎ、昼休みに書店へ行き、積んであった『想像ラジオ』(いとうせいこう 河出文庫)を買った。第一章を読んだ。動揺せずに読むことができなかった。わたしはこれを読み終えることができるのだろうか。
想像ラジオ (河出文庫)
いとう せいこう
25日(水)
仕事はなんとか間にあった。 よかった。さてメシにしよう、と塩漬けきのこの瓶を取り出すと、漬け汁が濁ってきている。本来発酵させるものではあるのだけど、自分がテキトーにつくったものは、これが発酵だか腐敗だか見極められんので困る。まあ妙なニオイはしないので、大丈夫だとは思うが、火は通して食べるほうがよかろう。というわけで、じゃがいもと煮てカレーにした。
ハラはこわさなかったので安心……じゃなくて、怪しげなものでもとりあえず食ってみるということをやめるべきだろ、普通は。こんどから半分の量でつくろう。
【我が家におけるロシア年2015】
チェーホフ 『カシタンカ・ねむい』読了。軽やかなユーモアは極上。9編の収録作品は、それぞれが異なった味わいをもち、どれも素晴らしいのだけど、わたしは「かき」と「富籤」が特に好きだ。「かき」では、仕事にありつけずに物乞いをしようと決めた父親に連れられた子供が、食べるどころか見たこともない「かき」について空想するのだが、その子の「空腹」という現実が、想像に次第に侵入しはじめ、その場に漂っている飲食店の食べものの匂いから、寒い日に夏外套を着て震えている父親の様子につながっていくあたりの上手さには惚れ惚れする。「富籤」は、落語的な息づかいを持つ作品。妻の買った富札の号数が掲載されているのに驚いて新聞を取り落とし、番号を確認するのを先延ばしにして(この時点で可笑しくてたまらん)、あれこれ空想し、それが徐々に夫婦ともどもお互いへの不信を募らせていくことになるさまが、もうどうにも可笑しい。どの作品にも、センチメンタリズムが一切感じられないのがいい。ほんでまた神西清の訳文の見事なこと!
カシタンカ・ねむい 他七篇 (岩波文庫)
チェーホフ 神西 清
26日(木)
夜、明太蒸し豆腐と梅割り焼酎。
ほぐした辛子明太子に酒少々混ぜて、豆腐にのっけて鍋で蒸すだけ。葱が切れていたので、イタリアンパセリをのせた。
27日(金)
本日のお買い物: 『塔本シスコ 絵の手帖』(平凡社コロナブックス)
あと、葉たまねぎというものも初めて見たので買ってみた。八百屋のおっちゃんに「ぬたにするといいよ」といわれたので、明日つくってみよう。
28日(土)
【我が家におけるロシア年2015】
チェーホフを読み終わったので、いま通勤時に読む本として、図書館で借りてきたゴンチャロフの『平凡物語』 (岩波文庫)を持ち歩いている。
平凡物語(上) (岩波文庫)
ゴンチャロフ 井上 満
上巻の半分ほど読んだのだけど……面白さを感じられない。どうしよう。
本日のロシア関連事業は「新たに塩漬け発酵キャベツを仕込む」。前に漬けたものは食べつくしてしまったので、新しいのを仕込んだ。今回は『平凡物語』といっしょに借りてきた、『ロシアの保存食』(荻野恭子 東洋書店)のレシピでやってみた。
ロシアの保存食
荻野 恭子
前回は刻んだキャベツとにんじんを塩もみして瓶に詰めたのだけど、こちらのレシピは、キャベツとにんじんを刻んで瓶に詰めたところに、漬け汁を注ぐやりかた。漬け汁の配合が同じなので、きのこの塩漬けもついでにつくった。
そして晩酌。
葉たまねぎとアオヤギのぬた、塩漬けきのこ(未発酵)のみぞれあえ、焙り明太子(ちょっと焼きすぎた)。